大切にしている言葉はソクラテスの「無知の知」
――下平さんはU-18監督時代を含め、指導歴は8年目。指導者として大切にしている言葉はありますか?
「自分の無知を知ることから始まるというソクラテスの『無知の知』ですね。指導者を始めたばかりのときって、自分は元選手だとか、経験を持っているとか、ゼロからスタートしなきゃいけないのに余計なプライドが邪魔する。実際、僕もプライドが邪魔していました。そんなときにこの言葉に出会って、そうだよな、と。自分が知らないってわかれば、人の意見も素直に聞ける。トップチームの監督になった今も、そうしています」
――周りの意見に耳を傾ける、と。
「コーチとは常にコミュニケーションを取るようにしています。コーチばかりじゃなくてアカデミースタッフであったり、フロントスタッフであったり……。サッカーの話をしていたら、なるべくなら自分も入っていきたい。そうすることでいろんな角度から見ることができるし、そういう考え方もあるのかと勉強になったりしますから。海外のサッカーを見ることもそうですが、いろんなところにアンテナを張っておきたいというのはあります」
――たとえばどんなコミュニケーションを?
「普段バックパスしない選手が、試合でバックパスをしてミスをしたとします。どんな意図で、そうしたのかが知りたい。コーチに聞けばいろんな見解があると思うし、自分で考えつかないところを言ってくれるかもしれない。周りが深読みしただけで、実はただ単に不用意なミスなのかもしれない。でもそうやって疑問に対して、違う角度からの意見が出てくることはチームづくりを進めるうえで凄く参考になります」
――選手からも意見を聞くことはあるのですか?
「意見というよりは、このときはどういう考え方だったのか、とかキャプテンの大谷に聞いたりします。選手側の考えを知ることも大切です」
――アンテナを張り、あらゆる角度から見る、周りの言葉に耳を傾けることでチームの現状を把握しているように思います。
「週あたまのミーティングの映像も、スタッフから知恵を借り、サポートしてくれています。いろんな人の支えがあって、今こうやってチームづくりができると感じています」
――現在、ACL圏内の3位につけています。今季、どう締めくくりたいと考えていますか。
「最後まで何とか勝ち続けたい。今年8連勝があったんだから、決して不可能じゃない。優勝の可能性がある限り、最後の最後まであきらめず、チームが一つとなって勝利を目指していきたいと思います。僕自身もこれまでどおり自然体で、『無知の知』を肝に銘じながらやっていきたいですね」
写真=杉山拓也/文藝春秋