「開催費用を捻出するには国民の理解と支持が必要」
たとえば2011年には、2028年夏季大会の招致プランが検討されたが、五輪招致の必要経費が“少なくとも”3000億円という見積もりを受けて、「コストがかかりすぎ、開催の意義を感じない」とスポーツ省や国会議員にあっさり却下されている。
コロナ禍が本格化する直前の2020年2月には、オランダ五輪委員会のアネケ・ファン・ザネン=ニバーグ氏が「オランダに五輪を招致するのが我々の目標で、常に意識にある」と2032年大会の招致に向けた意欲を地元紙に語った。
しかし、スポーツ省のブルーノ・ブルーインズ大臣が「五輪開催地への立候補の動きを支持するが、公的な資金を開催費用に捻出するには国民の理解と支持が必要。また12年先の開催を現時点で論じるのは時期尚早」と反対し、この話も立ち消えている。
リターンが不透明な投資を問題視
オランダでのオリンピックやパラリンピックの人気は高く、代表選手がトレーニングする施設も最先端の設備が揃うスポーツ先進国だ。IMFの経済指標などを見ても日本よりよほど健全で、財政危機に陥っているわけでもない。五輪招致は可能な財務状況だ。
しかし倹約国として知られるオランダは、前述した「国際社会における地位向上」、「経済効果」、「市民へのスポーツ振興と普及」などリターンが不透明なものに対して投資をすることに慎重で、それよりもインフラ整備や福祉や教育の充実など、はっきりとリターンがあるもの、国民の生活に確実にプラスになるものに予算を割きたい、と考える。
この考えは、多くの国が持つべき観点なのではないだろうか。その国、都市、市民にとって本当に必要なものを見極め、決定していくのが政治家の務めだ。
新型コロナウィルスの影響で、オランダもGDPが下がるなど影響を受けたため、おそらく五輪招致の話はしばらく保留になるはずだ。同国の五輪委員会にとって招致は悲願かもしれないが、オランダ政府には今後もこの独自路線を貫いてほしい気がする。
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