一般には知られていない中堅ゼネコンの社長にもかかわらず、永田町では知らぬ者のいない有名人だった男が、2020年12月17日に帰らぬ人となった。その男の名前は水谷功。小沢一郎事務所の腹心に次々と有罪判決が下された「陸山会事件」をはじめ、数々の“政治とカネ”問題の中心にいた平成の政商だ。

 彼はいったいどのようにして、それほどまでの地位を築き上げたのか。ノンフィクション作家、森功氏の著書『泥のカネ 裏金王・水谷功と権力者の饗宴』(文春文庫)より、芸能界でも幅を利かせていた男の知られざる正体に迫る。(全2回の1回目/後編を読む)

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疑惑の土地取引

 小沢一郎には、もう一つ法廷での闘いが残っていた。2010(平成22)年1月に東京地検特捜部に逮捕、2月に起訴された元秘書たちの公判である。小沢の資金管理団体「陸山会」による不透明な土地取引を巡る政治資金規正法違反事件だ。

 04年10月29日、陸山会は秘書寮の建設用地として、東京都世田谷区の476平米の土地を購入する。その事実を政治資金収支報告書に記載せず、翌05年になって購入したように偽装した。一見すると、事件そのものは単純な政治資金の虚偽記載に思える。が、検察はそこにある背景事情を見逃さなかった

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 地検が逮捕したのは、金庫番で経理担当の公設第一秘書だった大久保隆規や元事務責任者で衆議院議員の石川知裕、石川の後任となる池田光智の元秘書3人だ。うち実務を担当した石川が、この年の10月29日午前中に土地を購入した。土地購入にあたり、石川らは資金工作をする。陸山会をはじめとした小沢一郎の政治団体のカネをかき集めて4億円をいったんりそな銀行に預け入れ、その預金担保で同額の融資を受け直していた。あたかも銀行融資で土地を購入したかのように見せかけるためだ。

 これが、水谷建設による裏献金の時期ときわめて近い土地取引である。そこで地検は一連の資金操作について、ゼネコンマネーを隠すための偽装工作だと踏んで追及する。

検察と小沢の激しいツバ迫り合い

 そうして10年9月から、元秘書たちの事件における公判前整理手続きが始まる。本番の裁判を前に、お互いの主張や証拠を開示し、事前に争点を絞るための場だ。元秘書3人の公判前整理は4カ月余に及び、都合16回を数えた。その手続きのなかで、東京地検がこだわったのが、水谷マネーだ。とりわけ04年10月と05年4月の計1億円の裏献金問題をめぐり、小沢と検察、双方が火花を散らす。

「初公判で、水谷建設からの裏金が小沢事務所へ渡った事実を立証したい」

 検察側は来る初公判の冒頭陳述で、裏献金を立証してみせると意気込んだ。対する小沢側の弁護団は異を唱え、検察と小沢の激しいツバ迫り合いが展開される。