弁護側の期待
そこで、小沢側の弁護団は全日空ホテルにおける2度の現金授受のうち、1回目の04年10月15日の水谷建設元社長の川村と小沢事務所の元事務担当秘書、石川との現金のやり取りに絞り、検察側の主張を覆そうとした。ホテルのロビーで水谷建設の川村が石川に5000万円を手渡した現金授受は2人きりであり、切り崩しやすいと見たに違いない。つまり12月以降の水谷功に対する説得工作も、そこを踏まえたうえでのことだ。東京地検の関係者が指摘する。
「全日空ホテルの5000万円は、2回とも水谷功の仮払いとして、三重の水谷建設本社で出金されています。水谷自身は検察の取調べに対し、川村から求められて裏金の拠出を了承した、と供述し、それが検面調書(検察官面前調書)に残っています。まずその水谷証言を覆せば、調書の任意性を問えると考えたのでしょう」
小沢側が水谷功にどのような証言を期待し、証人出廷の説得を試みたのかは定かではない。紛れもなく水谷は水谷建設の中枢ではあった。それで09年の獄中告白について、水谷が「検察に誘導された虚偽だ」と証言を翻す。弁護側がそれを期待したフシもある。
しかし考えてみると、水谷本人は現金の授受現場に立ち会ったわけではない。仮にこれまでの水谷証言の任意性が問われても、事実関係の立証にはさほどの影響はない。双方にとって決定打にならない証言なのである。
さすがに小沢側の弁護団も、それははじめから承知しているに違いない。そのため、次に狙いをつけたのが水谷建設の運転手だった。運転手は水谷建設元社長の川村尚をホテルまで送り届け、クロネコヤマトの紙袋を目撃したとされる。川村の運転手の存在は、小沢サイドにとって極めて都合が悪い。しかし驚いたことに、小沢側の弁護団は逆手をとって運転手を公判の証人として呼ぼうとするのである。
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