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 1996年に韓国東海岸の江陵(カンヌン)で座礁した北朝鮮潜水艦には26人が乗船していた。その中に特殊工作員3人が含まれていた。座礁を察知した艦長は、その工作員3人は自力で脱出できると判断して、先に上陸させた。そして座礁を確認し、潜水艦を捨てて一斉に上陸したのだ。この光景を見たタクシー運転手の通報で、韓国軍が出動し、銃撃戦となり、1人を生け捕りにし、13人を射殺したが、他に11人の自殺者が発見された。したがって、少なくとも26人のうち1人は、軍事境界線から隙間なく張り巡らされている捜査網を逃れて、非武装地帯にある鉄壁のごとくの防御線を突破し、北朝鮮に帰還したと見られる。想像するのも難しい、並外れた能力であると言わざるを得ない。

殺人的な特殊部隊での訓練

 特殊軍事学校の新入生の中には、1か月ほどの基礎訓練課程で脱落し、退学させられる者もいるという。基礎訓練課程には野外での生存技術、250キロに達する強行軍訓練、山岳での夜間活動などがある。最初、彼らは35キロの砂の入った背囊を背負い、10キロの速歩強行軍を実行する。その後、距離がだんだんと20キロ、40キロ、そして50キロに延ばされての強行軍訓練になっていく。夕方に1人でキャンプを離れ、一定距離の山岳を速歩で踏破し、12時間以内に基地に帰還する訓練もある。

 帰還後には行軍途中に見たものに関する質問を受けるが、これは行軍中の観察能力を試験し、同時に行軍経路を忠実に守ったかどうかを確認する意味合いもある。彼らの訓練の量と過酷さは、普通一般の人民軍の4倍、ないし5倍に達すると言われている。

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 地形学と言われる訓練も受ける。これはテロ活動に関する地理と地形を熟知するというもので、一度地図を見て覚えた道を記憶し、地図なしで目標地を探していく訓練である。登山家が使用する装備なしで、岸壁や絶壁を登ったり降りたりする訓練も受ける。訓練は限りなく続く。武術はもちろん、射撃と銃剣術は基本である。その他にも遊撃戦術訓練、襲撃破壊、そして10人1組での小部隊活動や2人1組での戦闘組の活動、対象場所への潜入訓練、通信、無線、偵察など、訓練の種類は多様である。

 これらの訓練よりもさらに難しいのは、実際の状況を模した訓練である。たとえば待ち伏せと奇襲を実際にシミュレーションする、指定された場所でまず電話線を繫いで盗聴する、特定の時間と場所で車両を転覆させる作戦を遂行する、といった具合だ。ときには重要な官庁を襲撃し、その内部にいる人間を殺害せよという演習もある。そのような場合には、建物なり建物がある都市全体に、あらかじめ非常事態があるから徹底的に対処せよと警告しておいて、作戦を難しくする。この際の攻撃と守備は単純な訓練ではなく、実弾を使用する実地訓練のため、死傷者が出ることさえある。