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マスクで顔を隠し、お互いの実名も知らない訓練生

 その学校の訓練生たちには、教師が選択した韓国の映画やテレビ番組を見る特権が与えられていた。彼らはみんな将校で、戦闘や武術、射撃などに優れた能力を持っていた。校内には韓国の町並みをそのまま移したような生活空間もあり、訓練生はそこで韓国式の生活を覚えた。

 彼らは全国各地から選抜されたエリートで、肉体的または精神的な面以外に、家族関係なども考慮され、厳格な審査を経なければならなかった。彼らは皆が偽名で呼ばれ、原則的にお互いの実名は知らないようになっていた。お互いの顔をまともに見ることもない。席をともにしなければならないときには、マスクで顔を隠した。

 カン・ミンチョルは特殊軍事学校も優秀な成績で卒業し、卒業と同時にすぐに大尉となった。彼の軍籍番号は9970番であった。特殊部隊員たちにとっては、韓国に潜入し与えられた指令を遂行して戻ってくることは、特に難しい任務ではなかった。彼らは韓国のどんな食堂のどの料理が美味しいかを話題にできるほど、韓国に頻繁に出入りした。

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 カン・ミンチョルはインセイン刑務所にいたときに、服役者たちに自分が韓国で実行した幾つかのテロ活動について話したことがあった。大部分は騒動を起こしただけで、工作目標はどれも達成できなかったと告白したという。

北朝鮮の特殊部隊

 特殊部隊の同僚たちと同じように、カン・ミンチョルもまた多くの特権を享受していた。まず、給与が普通の水準よりもはるかに高かった。特殊部隊の大尉は、学校の校長や党本部の局長の2倍か、それ以上の給料をもらっていた。それは政府の次官級の給与にあたる金額であった。また、外出時には大佐の身分証を持って出かけた。公式の給与以外に、北朝鮮では一般人が入手困難な贅沢品も特別に支給された。しかし、このような特権の裏側では、通常では不可能な特殊任務を遂行するための殺人的な訓練が待ち受けていた。

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 肉体的な面だけでなく、精神的な面でも鉄人のように鍛錬したその成果は、実戦で証明された。北朝鮮軍は恐らく世界の特殊部隊の中でも、最も強い戦士たちを育て上げている。例を挙げると、1968年にソウルの青瓦台(大統領官邸)襲撃を計画した北朝鮮の124部隊員たちは、真冬の凍りついた山岳地帯で韓国の防御線を突破するという並外れた戦術能力を見せつけている。

 韓国軍保安機関は、冬の山岳地帯での重武装した兵力の行軍速度を最高4キロと予想して防御線を設置していた。しかし後日報道されたように、このときに潜入した124部隊員たちは、膝まで埋まる雪道の中を重武装したまま平均時速10キロで走破した。彼らの行軍教本を見ると、速さによって駆け足、半駆け足、速歩、徒歩などに分けられているが、雪道でなかったら、速歩の場合には時速12キロで移動できたという。