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“黒人のルックス”、“東南アジア出身者の韓国語”をジョークに… 韓国グループの「人種意識」を変えたBTSのファンの“底力”

『BTSとARMY わたしたちは連帯する』より#2

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 韓国人の大部分は多様性の幅があまり広くない社会で暮らしてきたため、他の国に比べると人種にたいする敏感さに欠けるのは事実だ。黒人のルックスの真似や、東南アジアの労働者の韓国語をジョークのネタに使うのが失礼である理由が、公の場で語られるようになったのも比較的最近のことだ。多様性に欠ける空気のなかで育った韓国ARMYの態度がこれまで問題視されなかったのは、BTSもまた韓国人だからだろう。韓国のグループを愛する他国のファンが、アーティストと同じ国のファンを非難するのは、心の重荷になったのかもしれない。アーティストの母国のファンの文化的な感性を責めるのは、アーティスト自身のルーツを批判しているようにも映る懸念も多少あったはずだ。いずれにせよ、人種差別にたいする黒人ARMYの告発は、これまで伏せてきたいろいろなことが一気に噴き出すきっかけとなった。

BTSのホームページより

対話を始める力こそ、ARMYの底力

 人種差別をめぐり異なる立場のファンが批判合戦を繰り広げる様子を、わたしは重い気持ちで見守っていた。世界各地に広がる、多彩な人がいるファンダム、ARMY。これは、BTSの活動が世界に広がり、ファンダムの構成にも影響を及ぼした結果だ。しかし、文化が衝突するたびに、それぞれの批判を並べ立てていたら、ファンダムはひとつになれない。そんななか、わたしは一筋の希望を見出した。ARMYたちは人種問題に背を向けず、双方の立場に対等に耳を傾けるために対話と議論を始めたのだ。

 彼/彼女たちの誠実な姿勢は、議論の成否はともかく、ファンダムの未来に大きな可能性をしめした。対話の内容は印象深く、わたしは、ARMYはすぐに完璧にはなれなくとも、正しい方向性とともに前進するグループだと感じた。差別と攻撃がまん延するこの世界で、互いの考えを理解し、誤解を減らすために対話を始める力こそ、ARMYというファンダムの底力だと思った。

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*1(訳注) 奴隷として売られアメリカにやってきた黒人を描くアメリカの小説『ルーツ』の主人公。テレビドラマも制作されている。

*2(原注)「ホームマスター」の略で、アーティストの日常を追いかけ、クオリティの高い写真を撮ったり編集 したりするファンを指す。 人気の高いアイドルほどホムマが多く、ホムマ自身が有名人になることも多い。

*3(原注) 黒人ARMYは、これを「ホワイトウォッシング(whitewashing)」と表現する。本来は、ホワイトウォッシングとは映像作品でアジア系の役を白人俳優に任せたり、白人俳優だけをキャスティングしたりする、白人中心主義な配役を指す言葉だ。 韓国をはじめとするアジア諸国が白い肌を理想とするのは、「白人に対する憧れ」の影響もあるが、歴史的に美の基準は文化圏の格差構造と密接な関係を持つ。過去に豊満な体つきが理想とされたのは、一般の人が栄養を十分に摂るのが難しかったためであり、近年スリムなスタイルが好まれるのは、身体に投資してボディメイクをする余裕を表しているためだ。同じように、欧米で日焼けした小麦色の肌が人気なのは、日差しの下で休暇を楽しむ余裕があることをしめす。一方、アジア圏では肉体労働をイメージさせない白い肌を好む傾向があり、欧米とは逆である。

BTSとARMY わたしたちは連帯する

イ・ジヘン ,桑畑 優香

イースト・プレス

2021年2月17日 発売

“黒人のルックス”、“東南アジア出身者の韓国語”をジョークに… 韓国グループの「人種意識」を変えたBTSのファンの“底力”

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