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若武者らしく大きく振り込んだ腕から放たれた渾身の初球は……

 8回表2点リード、無死一、二塁の局面で救援投手として颯爽とマウンドに上がる大沼。迎えるはオリックスの主砲・シェルドン。若武者らしくセットから大きく振り込んだ腕から放たれた渾身の初球は、ベテランの名捕手・伊東の懸命のジャンプのさらに上を轟然とホップし、左手いっぱいに伸ばしたキャッチャーミットの先をかすることなく直進し、バックネットに突き刺さります。おい大沼。挨拶代わりにきっちりと暴投をかます大沼の礼儀正しさには脱帽しかありません。

 大暴投で粛々と二進三進されて二、三塁となったあと、フォークボールがすっぽ抜けて打者シェルドンのヘルメットを直撃してデッドボール。俺が大沼だ。なめるなよ、といわんばかりの投球に、球場がざわめきます。無事に満塁となった後、続く五島に甘く入った初球ストレートをライト前にはじき返されて同点タイムリー。わずか3球で同点にされてしまいます。

 勝ち投手の権利がなくなり、ベンチで真っ白になっている西口。何しに出てきたんだ、仕事しろと罵声も飛び交いますが、しかし、大沼は格が違います。残る三人を三振三振右飛で無難に仕留めて、自分の出したランナーは誰一人帰さず、自責点0で悠然とマウンドを降りるのです。

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 大沼の恐ろしさは、救援で出てきたにもかかわらず、前の投手の出したランナーは残さず綺麗に帰していく一方、投げてるうちに仕上がってきて自分の出したランナーはあんまり帰さないという、当時の西武中継ぎ投手陣の固有スキルを余すところなく体現していたことでした。

 その後、ちょうどイースタンでヤクルト戦を観に行ったら大沼が調整で投げていたのですが、最初の打者にいきなり挨拶代わりの四球。次いで挨拶不足だったと言わんばかりの連続四球で塁を埋めながらも、残るバッターには「俺がドラフト1位だ」と豪語するかのような連続三振でピンチを切り抜けます。明らかに、投げてるうちに暖まってるわけですが、それでも西武はこの逸材である大沼幸二を時に先発に、しかしメインは中継ぎに起用し続けます。

2000年にドラフト1位で西武ライオンズに入団した大沼幸二 ©時事通信社

3点リードの場面で抑えの切り札として登場

 圧巻だったのは2004年5月7日。このシーズン、猛打を誇った日本ハム相手に唯一「無四球完封」を成し遂げてしまいます。ヒーローインタビューでの誇らしげな大沼画像は、いまだに私の宝物です。

 さらには、同年から時折クローザーとして度々登板。それまで抑えとして活躍してきた豊田清、森慎二の後継者として、期待の右腕・大沼幸二に白羽の矢が立つのも当然のことでした。

 ところが、9回表、3点リードの場面で抑えの切り札として出てきた大沼幸二。何を思ったか福岡ソフトバンクホークスの先頭打者・5番ズレータに「俺が大沼幸二だ」と挨拶代わりのストレートの四球。続く柴原にも挨拶不足でしたとばかりに連続四球。焦げ臭い匂いが球場に立ち込めます。不運なエラーもあって満塁として二死まで取った後、一番大村に起死回生の走者一掃同点タイムリー三塁打を打たれてしまいます。二死でエラーの出塁からの失点なので大沼に自責点はつきませんが、ベンチでは勝ち投手の権利を失った西口が真っ白になっています。

同点とされた後の大沼は見事立ち直り、続く川崎を三振に仕留めて悠然とマウンドを降ります。いったい何だったのでしょう。あまりに鮮烈な救援劇だったこともあり、この試合を最後にこのシーズンでは大沼がクローザーとして登板することはありませんでした。