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西新宿から「職員が死にそうだ」とうめき声が…… 元幹部職員が明かす、小池百合子が招いた東京都庁の悲惨な「緊急事態」

『ハダカの東京都庁』に寄せて#1

2021/06/15

source : ノンフィクション出版

genre : ニュース, 政治, 読書, 社会

五輪は道具、都知事は踏み台

 それはそれとして、五輪開催か中止かを巡り、日本中が侃々諤々の大騒ぎになっている。IOCも菅政権も開催強行に前のめりである。

 だが、当事者の一人である小池知事の口から「さあ皆さん、コロナを何としても抑え込んでオリンピックの開催にこぎ着けましょう。皆さんの力で大会を成功に導きましょう」といった熱いメッセージはとんと聞こえてこない。何を聞かれても、「安全安心な大会のために準備を着々と進める」と事務的な文言を繰り返すだけである。テンションは極めて低い。

 6月1日、令和3年第2回都議会定例会の開会に当たって、小池知事は本会議場で所信表明を読み上げたが、開会50日前の高揚感はなく、むしろ冒頭では、コロナワクチンの接種の遅れを強調し、責任を国になすりつけることに余念がなかった。

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 コロナ禍であることを差し引いても、開催都市のトップであれば、開催に向けて都民に協力を仰ぐのは当然のことだと思うのだが、小池知事がそんなことをする訳がない。なぜなら、政治家・小池百合子にとって東京2020大会は、自分を引き立たせ、政治的な立場を優位に持って行くための道具立ての一つに過ぎないからである。五輪への思い入れや選手への配慮など、小池知事にはこれっぽっちもない。

 5年前の夏、初当選直後のリオ大会に駆けつけた小池知事は、閉会式に和服で登場し五輪旗を受け取った。その直後から、都内の会場の見直しを言い出した。アスリートにとって云々とか、東京の街にとって云々という話ではなかった。すべては政治的な駆け引きのためであり、五輪も市場移転問題も、これは道具として使えそうだと踏んだから、ちょっと利用してみただけのことである。

 案の定、五輪会場の見直しも豊洲への移転延期も、結局はぐるっと一周して元に戻って決着した。だが、小池知事が騒動のための騒動を引き起こした責任について、都民に謝罪した姿を見たことはない。

 そもそも、都知事の椅子でさえ、小池氏にとっては政治的な野望の踏み台でしかない。都民の付託を受けて当選した人間が、1年後に国民政党を立ち上げて国政選挙に打って出るなどという、都民を小馬鹿にした行動を誰が取るだろうか。いや、小池氏は平然と希望の党を立ち上げたのだ。彼女の頭の中には、最初から壮大なシナリオがあって、都知事のポストは三段跳びの一歩目の役割を担っていたに過ぎないのだ。

 この時のシナリオは見事に破綻したが、そんな程度でへこたれる彼女ではない。「小池の小池による小池のための」政治を実現するまで、小池氏の政治的な駆け引きは続くだろう。しかし、その陰で置き去りにされて割を喰わされるのは、いつも都民であることを忘れてはいけない。