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タイミングを見計らって相手にダメージを与える常套手段
単身、知事執務室に入り、ひたすら謝った。ひるんだら負けだ。率直に市場当局の非を認め、落とし前は付けますと告げた。すると知事は「どうやってつけるの?」と意地悪そうに突っかかってきた。
これはまずいと思ったが、もう後の祭りだ。「辞表を出します」とは口が裂けても言えない。「じゃあ、そうしなさいよ」と言われかねないからだ。冗談じゃない、たかがパンフレットひとつでクビかよ。そこで、「我々の責任ですから」と同じ返答をひたすら繰り返した。
印刷物の配布の順番を間違えたという単純なミス。豊洲市場への移転に光明が見えた市場当局に気の緩みがあった。この程度のこと(パンフの印刷と配布)をいちいち知事に上げなくてもいいと高をくくっていたのだ。
が、知事は違った。市場当局は知事の私を差し置いて、都議会サイドと図って物事を進めていると勘ぐった。自分が蚊帳の外に追い出されたのが、よほど癪に障ったのだ。裏返せば、その程度の人間なのだ。
冷たい視線に10分間ほど耐えたころ、江東区議会から急きょ戻った市場長が息を切らせて執務室に入ってきた。怒られるのは1人より2人のほうが少しは気が楽である。援軍の到着に内心ほっと胸をなで下ろした。
一通りの謝罪が済み、市場長と筆者が腰を椅子から浮かせた瞬間だった。「今日の夜、私は所用が入りましたから」と知事は抑揚のない口調で言った。立ち去るタイミングを見計らって相手にダメージを与える手法は小池知事の常套手段だった。