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「なぜ知事である私が……」「落とし前はどうやってつけるの?」 小池百合子都知事が‟冷たい視線”で激怒した‟パンフレット事件”の内幕

『ハダカの東京都庁』に寄せて#2

2021/06/15

source : ノンフィクション出版

genre : ニュース, 政治, 読書, 社会

note

知事の回りを固めるイエスマンたち

 前年の暮れ、移転開場日を正式に決定した直後、束の間、知事との関係は雪解けかと思われた。事実、知事から市場当局の幹部職員を慰労したいので一席を設けたいとのありがたい話があり、日時と会場、座席表も固まっていた。パンフ事件で知事が激怒したこの日は、いみじくも知事との夜の会食が設定されていた日だったのである。

 小池知事は、市場長と筆者に向かってこう言った。

「楽しいお酒になるかしら? 代わりに野田特別秘書を行かせますから」

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 もちろん、知事の目は笑っていなかった。相手にとどめを刺すことを忘れないのが小池知事なのである。

 小池知事から冷水を浴びせられたのは筆者だけではない。何人もの局長級幹部が些細なミスや不手際で、また真っ当な進言を煙たがられたり、自民党と通じていると疑われたりして、左遷の憂き目にあっている。コロナ拡大の第一波の直後には、対策の陣頭指揮を執っていた福祉保健局長がいとも簡単に飛ばされた。その一方で、知事の周りは絶対の忠誠を誓うイエスマンたちで固められている。

 都庁は今や、風通しの悪い、ジメジメした、相互不信の塊のような組織に成り果ててしまった。いくら現場の職員が身を粉にして頑張っても、上層部がこれではまともな組織とは言えない。一刻も早く都庁を天日干しする必要がある。そして、悪い虫を追い払わなければならない。

「あんな悪人に、私は会ったことがない」

 最後にひと言、申し添えたい。

 これまで筆者は、TouTubeやウェブコラムなど様々な場を通じて、小池知事に悪口雑言を投げつけてきた。おまえのやっていることはクビになった個人的な恨みを晴らそうとしているだけだと揶揄されたこともある。

 だが、それは違う。こうまでして批判を止めないのは、小池百合子という政治家が都庁にとって「危険極まりない存在」だからである。カッコよく言えば、毒を真っ先に感じ取ったカナリアがか細い声で鳴き声を上げて周囲に警告を発し続けているのだ。

 それでもなお、筆者の言葉が胡散臭いとお思いの方もいらっしゃるだろう。ならば、最後に次の言葉を紹介するしかない。ある都庁OBが彼女を評して漏らしたひと言である。

 その人は筆者の尊敬する数少ない元都庁幹部の一人だが、ある時、人格者であるその人は筆者を前にして、静かに、だがはっきりとこう言い切ったのである。

「あんな悪人に、私は会ったことがない」

ハダカの東京都庁

澤 章

文藝春秋

2021年6月10日 発売

「なぜ知事である私が……」「落とし前はどうやってつけるの?」 小池百合子都知事が‟冷たい視線”で激怒した‟パンフレット事件”の内幕

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