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興収85億円の大ヒット『世界の中心で、愛をさけぶ』

 演技に対するふたつのアプローチを体得し、『世界の中心で、愛をさけぶ』も興行収入85億円の大ヒットに。ブレイクを果たした彼女は、新進女優のひとりから若手女優の急先鋒となる。

映画『世界の中心で、愛を叫ぶ』(TBSチャンネルより

 あだち充の代表作を実写映画化した『タッチ』(05)と『ラフ ROUGH』(06)。妻夫木聡の妹役で共演した『涙そうそう』(06)。阿部寛、長谷川京子、山下智久、小池徹平、新垣結衣、サエコ(現・紗栄子)、中尾明慶という今となっては錚々たる顔触れと共演した『ドラゴン桜』(05)と、映画、ドラマの双方でヒット作、話題作を連発する。

21、22歳の頃「10年仕事を続け、少し疲れていたのだと思います」

 しかし、20歳を過ぎた頃に俳優業を続けるモチベーションが揺らぎ出したようだ。「実は21、22歳の頃、ちょっと仕事へのモチベーションが落ちていた時期がありました。10年仕事を続け、少し疲れていたのだと思います。(中略)私はもう十分頑張ってきたつもりなのに、まだやらなきゃいけないのか、という気分に」と当時を振り返っている(※3)。

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 その背景には東宝シンデレラという女優の出自があったのかもしれない。恋人のDVに苦しむ女性を演じた意欲作『ラスト・フレンズ』(08)もあったが、どこか東宝シンデレラ特有の可憐や清楚といった印象がつきまとっていたし、こちらも感じてはいた。あくまで憶測だが、そういった固定された印象が壁になっていたのではないか。

 だが、それらを間違いなく打ち破ったのが『モテキ』(11)だろう。演じたのは、自意識過剰な草食男子・藤本幸世の前に現れる雑誌編集者の松尾みゆき。明朗活発でサバサバしているが、恋人がいる身にも関わらず幸世に気のある素振りを見せて振り回しまくる。

映画『モテキ』(「TELASA」より)

 自分の部屋で酔いつぶれてしまったみゆきが目を覚ましたのに気づき、コップに水を汲んで差し出す幸世。ゴクリと飲んだ後、みゆきは「飲む?」と口に水を含んで口移しで幸世に飲ませる。このキス・シーンを観た時には、従来のイメージが崩れる大きな音がどこかから聞こえてきた。また、飲みの席から離脱する際の彼女が、ニンニン・ポーズで「私、ここでドロンします」と挨拶した後に投げたエア手裏剣は、観た者の胸に刺さって抜けなくなったままのはずだ。そして、なによりもショート・カットである。長澤自身の内面にある葛藤も断ち切ったように見えて仕方なかった。