『曲がれ!スプーン』と『クレイジーハニー』で得た“気づき”
『モテキ』と共に、この時期の重要作に挙げたいのが『曲がれ!スプーン』(09)と本谷有希子の作・演出による舞台『クレイジーハニー』(11)だ。
前者は劇団ヨーロッパ企画の戯曲の映画化で、共演者に小劇団の俳優が揃ったこともあってエチュード(即興芝居)を現場で実践。臨機応変に台詞を投げて投げられるエチュードが、共演者との距離を縮めると共に作品を良いものにしようとする固い結束力を生んだそうだ(※4)。
後者では、体を動かしながら台詞を身につけていく感覚が新鮮で、「映画やドラマだと言い終えた台詞はすぐに遠いものになってしまいますが、舞台の台詞は自分の中に言葉がちゃんと息づいていくように思え」たという(※5)。
座長としても采配を振るった『コンフィデンスマンJP』
その“気づき”が昇華したのが、『コンフィデンスマンJP』シリーズ(19~20)だ。演じるのは、ボクちゃん(東出昌大)、リチャード(小日向文世)、五十嵐(小手伸也)を率いて信用詐欺を繰り返すダー子。同シリーズで圧倒され、笑わされるのが、コミカルでスピーディーな台詞回しと、東出、小日向との演技とも本気ともつかないやり取り。これは、この3人組の結束力と化学反応が生んだものと語る。
「百戦錬磨の方だからと言って、小日向さんが私たちに力を抜いた芝居をするようなことは一度もなくて。だからいい化学反応が生まれたのかな、と。(中略)東出(昌大)君は優しくて穏やかで、実年齢より若く見られますが、普段はとても賢くて大人な人で、素朴さも持ち合わせているので、“ボクちゃん”という、みんなにイジられ、うだつが上がらない男みたいな雰囲気やキャラクターにもぴったりハマっていて(笑)」(※6)
ダー子は詐欺師グループのリーダーだが、実際に長澤が現場で座長としても采配を振るっていたそうで、それが作品にも良い意味で反映されていたのではないか。その気配を如実に感じたのが、昨年7月、急逝した三浦春馬さんも出演していた『コンフィデンスマンJP プリンセス編』公開初日のこと。新型コロナウイルス感染拡大の影響で2カ月半あまり公開が延期され、リモートでの舞台挨拶で長澤は、「愛すべきコンフィデンスマンたちが、みんなそれぞれ、映画の中で頑張ってます。その姿をたくさんの人に観ていただきたいなという風に思います」と語った。
同日朝からはフジテレビの情報番組へ立て続けに出演。「めざましテレビ」で軽部真一アナウンサーから三浦さんについて訊かれた長澤は、「愛敬があって人懐っこくて、とても正義感の強い子だったんじゃないかなと思います。私も弟のように思っていたところがあったので、とても残念ですが、コンフィデンスマンの映画に映っている春馬くんはとてもキラキラと輝いておりますので、その姿をみんなの目に焼き付けてほしいなという気持ちです」と気丈に話していたことが深い印象を残した。