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2021/06/12

「両親は、半ば呆れていました」

 日本語に興味を覚え始めると、呉の興味は日本そのものに向かった。

「大学1年生の時、友達との初の海外旅行先も東京で、とても楽しかった。ただ、まだ日本語ができなくて迷子になったりしたので、『日本語をもっと勉強したら、日本のいろんな地域に旅行できる』と思いました」

 さらには、待ち構えている就職活動でも日本企業が選択肢の1つとして、現実的になってくる。

「貿易を専攻していて『いつか海外で暮らしてみたい』と考えていたのと、日本の個性ある地方を旅する楽しさに気付き、日本語への興味も高まっていましたから、自然と『日本企業で働きたい。日本で就職したい』と思うようになりました」

 両親は、意外過ぎる娘の言葉に、娘はどうかしてしまったのか、というような視線を返してきたという。

 親の戸惑いをよそに、「意外と頑固」だという呉は日本での就職に向けて動き始める。

 日英バイリンガルのための就職・転職サービスを手掛ける「CFN」が主催する企業面接会に参加した。場所は、東京・有明の「東京ビッグサイト」だった。

韓国・ソウルで行われた面接会の様子(「K Village Tokyo」提供)

「両親は、本当に日本で働くつもりなんだと半ば呆れていました」

 呉は屈託なく笑う。

 この面接会に来るのは、ほとんどが帰国子女の学生。そんな中で、呉の存在はやはり異色だったようだ。「ファーストリテイリング」「セブン‐イレブン・ジャパン」など有名企業のブースを訪ねた呉には採用担当者の方が驚き、韓国から単身やってきたと知るや、担当者からは「勇気がある」と感心されたという。

「個人より“大企業に合う人”を探しているって感じ」

 大企業ばかりがブースを並べる会場で、呉は初めて日本企業と触れたことになった。呉はどんな感想を持ったのだろうか。

――日本の企業はどうでしたか?

 呉の答えは明快だった。

「大企業は、やはり個人を見るというより“大企業に合う人”を探しているって感じでした。うーん……だから、私には向いてないかなって思いました。私は、個人を見て欲しかったですから」

 そして、呉に次のチャンスがやって来る。

 前編で紹介した語学学校を運営する「K Village Tokyo」が主催する、日本企業の人材採用イベントだった。呉は2019年5月ソウルで行われたそのイベントに参加する。およそ20社近い日本企業が参加し、そのうち80%がベンチャー企業だった。

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