“最悪の日韓関係”といわれる政治状況の中で、韓国人の新卒学生が日本での就職を目指していた――。韓国での就職難を背景に海峡を越えた学生たちに、日本企業はどのように映っているのか。そして、日本企業が彼らを採用する理由とは……。ノンフィクション作家の児玉博氏がレポートする。(全2回の2回目/#1を読む)
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きっかけは「BIGBANG」だった
「こんにちは。初めまして呉と申します。今日はありがとうございます。よろしくお願いします」
小柄な女性は笑顔を見せながら、流暢な日本語でこう挨拶をした。24歳だという。
あどけなさが残るこの女性が、ソウルでの面接で「韓国と日本の架け橋になれるような人材になりたい」「全力で働きます」と言って、「メディカルネット」社長の平川裕司を感動させた“やり手”には、とても見えない。
およそ250万人の人口を抱える大邱広域市出身で、地元の大学に通っていた彼女の専攻は「韓国文学」と「貿易」だった。
「自分でも、ちぐはぐな専攻だと思いました」
こう笑って見せる呉だが、大学2年生になるまでは、さほど日本や日本語に興味があった訳ではないという。日本語に興味を持つきっかけが面白い。
彼女はK-POPのスーパースター「BIGBANG」の熱狂的なファンだった。その大スターであるBIGBANGのメンバーが、日本進出にあたって日本語を勉強し、日本で行われたコンサートで、日本人ファンに対して日本語で語りかけていた。
そのコンサートの映像を見た呉は戸惑う。私の大好きなBIGBANGが私の知らない言葉で語りかけている。大ファンである私が、それをまったく理解できない……呉はそのことが許せなかった。大好きなBIGBANGが何を語っているのか知りたい。その思いが、呉を「日本語」に向かわせた。
前編で紹介した、東京で韓国語の語学学校に通う20代の日本人女性の思いは「K-POPアイドルが話していることが分かりたい」「字幕なしに韓国映画を観たい」だった。日本の若い女性たちの思いと呉の思いは、見事に一致していた。