“最悪の日韓関係”といわれる政治状況の中で、韓国人の新卒学生が日本での就職を目指していた――。韓国での就職難を背景に海峡を越えた学生たちに、日本企業はどのように映っているのか。そして、日本企業が彼らを採用する理由とは……。ノンフィクション作家の児玉博氏がレポートする。(全2回の1回目/#2を読む)
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韓国語学校は、英会話学校と何が違うか?
韓国のエンターテイメント業界が今や世界規模となったことを証明したのが、K-POPグループ・BTSの「Dynamite」が全米ビルボードNO.1を記録したことだった。「Netflix」のキラーコンテンツとなった「愛の不時着」「梨泰院クラス」といった韓国ドラマの世界的ヒットも記憶に新しい。
K-POP、韓流ドラマ、映画と進化し続ける韓国エンターテイメント。“第4次韓流ブーム”とも呼ばれるが、そのムーブメントはエンタメの世界を越えて、日本のビジネスシーンにも大きな影響を与えている。
4月上旬。ある平日の午後2時。
JR新宿駅からほど近いビルの一角に「ワンコインで韓国語を学ぼう」と謳う韓国語の語学学校がある。扉を開くと、すでにマンツーマンで授業を行うブースは満員の状態だった。コロナ禍の中、オンラインでの授業を希望する生徒もいるが、やはり対面での授業を望む生徒が圧倒的に多いという。
透明なアクリル板で仕切られたブースを見ると、20代と思われる若い女性の生徒がほとんど。この日、男性生徒を見かけることはなかった。
例えば、英会話学校なら、その広告を見ても分かるように、対象はビジネスマンも多い。語学の資格を取りたい学生もいるだろう。つまり、仕事に密着した資格の獲得や語学という技術の習得が目的である。
ところが、この韓国語学校に通う女性たちの大半の目的は異なる。実利を求める英会話学校に通う生徒とは正反対に、大半が趣味のために学んでいるのだ。
「だってNetflixの(韓国)ドラマを字幕無しで観たいし、(K-POPスターの)コンサートでしゃべっているのがわかったほうが嬉しいでしょう? だから私は、ここでハングルを勉強してるんです」
リモートワークの合間を縫ってやってきた会社員の女性(27)の言葉だ。この女性は新型コロナの感染拡大が広がる前、すでに2度ほど「韓国に“プチ留学”にも行きました」とのことだった。