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2021/06/12

日本人学生とは違う“やる気”

 彼らが望んでいた人材の多くはIT技術者ではあったが、中には総合職的な人材を求める企業もあった。

「うちとしても初めての試みなので、正直なところ『どんなものかな』っていう気持ちでした」

 と、ある企業の担当者が打ち明けるように、今回の試みに参加した企業の多くが手探りだった。

 しかし、面接を進めているうちに会場の空気が変わってくる。まず、面接に来た韓国の学生の様子に日本側担当者たちが驚いた。日本の学生のように、いわゆる“リクルートスーツ”を身に着けて、流暢な日本語で語り始めたのだ。

 そして、何より担当者らに新鮮だったのは、日本人学生とは違う“やる気”のアピールだった。

「正直、本当に驚いた。『日本企業で働いて成功したい』とか、『誰よりも働く自信がある』とか、その思いがこっちに直に伝わってくる。こんな経験は日本ではしたことがない。ものすごく新鮮で、感動さえ覚えました」

ソウルで行われた面接会の様子(「K Village Tokyo」提供)

 そう語るのは、およそ40名の学生がそのブースに並んだ「メディカルネット」社長、平川裕司(50)だ。

 人間の持つ熱量だけでなく、基礎的な能力も高かったという。歯科医療の関連機関と治療者たちとを結びつけるプラットフォームビジネスを展開する同社は、2時間かけて面接を行い、結果3人の新卒、2人の中途採用を決めた。

 入社は年が明けた2020年4月。世界的に新型コロナウイルスの感染が拡大する中、新卒3人のうち1人は2月に来日ができたものの、残りの2人は来日を遅らせざるを得なかった。2人が来日できたのは、感染拡大が落ち着きを見せていた11月のことだった。

 今や3人はグローバル採用の1期生として、即戦力になっている。たとえば、平川が「飛び切り優秀だ」という新卒女性は、製薬メーカーと歯科医師とをつなぐマーケティング部門の最前線で働いている。

子供を日本に送り出した「韓国の親たち」の想いは?

 3人が来日したのは、まさに日韓関係が最悪といわれ、さらにコロナ禍が世界を覆ったタイミング。平川は、そんな状況下で子息を日本に送り出した韓国の親たちに、自ら手紙を書いたという。

〈当社では、個人としても成長し、社会人としても成長し、さらに日韓友好の架け橋になっていただけることを期待しています。また、当社の事業を通じて、韓国や日本だけでなく、アジア人としてアジアの発展に寄与してもらいたいと期待しております〉

 しばらくすると平川の元に、来日した3人のうちの1人、女性社員の呉さん(24)の両親から“日本語”で書かれたお礼の手紙が届いた。その手紙には、非常に美しい丁寧な日本語で次のように書かれていた。

〈海外で働くこととなり、期待も不安もございましたが、社長様のお手紙をいただいて日本での生活を最大限にサポートしてくださるということで親としては安心させていただきました〉

 日本で働き始めた呉本人に、東京で取材ができたのは4月後半だった。透明のアクリル板越しではあったが、対面での取材だった。(文中敬称略)

#2に続く)

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