より気軽に参加できる“トラスト制度”
大山千枚田は、千葉県で最も高い愛宕山(標高408メートル)を擁する嶺岡山系の麓にある。同山系の一帯は、地球内部のマントルから噴出した蛇紋岩(じゃもんがん)由来の地質だ。蛇紋岩は永い年月をかけて風化すると粘土質の肥沃な土壌になる。だからこそ、雨水だけで水稲が栽培できるのだが、収穫できる米もひと味違う。これも、オーナーの希望者が多い理由だろう。
保存会の活動は、オーナー制度を核にして、どんどん広がった。
懇親会で「食べる米も重要だけど、酒にする米も欲しい」という声が出て、「酒づくりオーナー制度」を始めた。食米としてはコシヒカリを作付けるが、酒米用には新潟生まれの酒造好適米・五百万石を植える。収穫後は、地元の酒造会社に委託醸造し、オーナーはそれぞれラベルやぐい飲みづくりを行う。
四半世紀にもなる活動だけに、保存会設立に関わった農家も引退したり、亡くなったりする。そうした農家に跡取りがいなければ、遺言のようにして「あとを頼む」と保存会に栽培を託す場合がある。託された棚田には、トラスト制度を導入し、共同で作業に当たる人を募集した。「これだと負担感が少なく、オーナー制度への導入として加わる人がいます」と浅田さんが説明する。
行政の補助金に頼っていては続かない
耕作放棄されてから年月が経ち、水田として使うのが難しくなった田んぼには、大豆を植えるトラスト制度を導入した。これも作業は共同で行い、収穫後は手作り味噌などの原料にする。
放棄地ではオーガニックコットンや藍(あい)を育てるトラスト制度も始めた。乾燥地ではないので、決して栽培に適しているわけではないが、「日本人はもともと自分に必要な物を自分で作っていた。その技術を見直そう」とメニュー化した。染色には藍だけでなく、間伐材や増えすぎて伐採した竹、梅などにつく苔(こけ)も原料にしている。苔を使うと紫色に染まる。
千枚田に出入りする人の中からは、毎年のように大山地区などへの移住者が出る。古民家を改修して住む場合には、できるだけ国産材を使ってもらい、作業の一部を大工の指導でやらせてもらう「家づくり体験塾」も開いている。「移住希望者の参加が多いのですが、建築士や設計士、ハウスメーカーの社員が実際に家づくりを自分の手で行いたいと申し込む場合もあります」と浅田さんは話す。
保存会のスタッフは浅田さんら3人で、同種のNPO法人としては多い方だ。「行政の補助金に頼るのではなく、固有の職員を採用して自前の事業を行い、給料を払えるようにしないと活動が続かない」という考えからだ。
「もちろん給料は安いのですが、出費とストレスの多い都市部の生活と比べると、こちらの暮らしの方がはるかに満足度が高いですよ」と浅田さんは断言する。