さらに兵士たちの軍服の細かい特徴に注目。カメルーンの兵士がフェイスブックに上げているデータと照合した。銃はセルビア製と突き止めた。この地域では珍しい銃でカメルーン軍の一部の部隊で使用されているものだった。以上から実行犯はカメルーンの軍人たちと断定された。調査開始から3か月後、BBCは判明した詳細な事実を報道してカメルーン政府に見解を問いただした。
その結果、カメルーン政府は7人の兵士たちを逮捕してその氏名と階級を明らかにした。
この調査報道の中心になったのはオーストラリア人の若い男性ベンジャミン・ストリックだ。同僚によるとオタク気質だという。
BBCの幹部は「今、ジャーナリズムの世界ではオープン・ソースの調査は必須の技術」だと語る。ネット上にあふれる映像や画像を分析して「いつどこで誰が何をしていたのか」を特定する技術。ネットにつながった部屋の中で国際的な犯罪や国家権力による不正やウソを追いつめていく。そんな革命的な調査報道の「最前線」が次々に紹介される。
現地を取材できない新疆ウイグル自治区の実態を探る
シンクタンクのオーストラリア戦略政策研究所は中国の新疆ウイグル自治区での政府による大規模な弾圧を調査している。外国メディアによる現地調査はほとんどできないため、同研究所は中国政府が「職業訓練や反テロのための教育施設」だと説明する建物に注目して衛星画像を分析した。6重のフェンスなど異様なほど警戒が厳重だ。地方政府が発注したこの建物について公共工事の入札情報をネット上に見つけ、施設は「隔離のため」で「監視システムを作る」と明記されていたことも判明した。新疆ウイグル自治区で200以上のこうした施設が砂漠の中に次々と建設されていることが判明した。
この分析を行ったネイサン・ルーサーは20代前半。大学生だった頃にネット上のトレーニングアプリの使用記録からアメリカ政府が中東の砂漠に置いた秘密基地の存在を暴いて一躍注目を集めた若者だ。
「世界中の仲間たちと協力し合ってゲームを攻略する」という発想
ストリックやルーサーにこうした調査報道の手法を教えたのがイギリス人のエリオット・ヒギンズだ。オランダにオフィスを置く調査集団べリングキャットの創設者だ。ネットを通じて世界中に協力メンバーを募り、ストリックやルーサーも仲間だった。ヒギンズ自身はジャーナリストの経験は以前なく「ゲームの達人」として知られる存在だった。オンラインゲームで身につけた「世界中の仲間たちと協力し合ってゲームを攻略する」という発想で世界中の協力メンバーとともに秘密を暴いていく。