彼に言わせれば、超大国の陰謀を暴く調査報道も「世界で一番面白いコンピュータ・ゲームを見つけた」とゲームの延長線の感覚だ。
最初にベリングキャットが手がけたのは、2014年7月にウクライナ上空で起きたマレーシア航空機の撃墜事件の真相究明だった。何者かが地上から発射したミサイルで298人の命が奪われた。墜落現場はロシアが支援してウクライナからの分離独立を求める武装グループが実効支配する地域だった。
ヒギンズは軍事に詳しい人やロシア語に堪能な人に呼びかけてSNS上の画像や動画を探り、墜落の数時間前に「ミサイル搭載車両」が移動していたルートを詳細に解明した。前月にロシア国内にいたこの車両が事件のあった当日にはウクライナ国内の墜落現場付近を移動していた。そして事件翌日には再びロシアとの国境の方へと姿を消す。その時の動画ではミサイルが1発なくなっていることも確認された。
ミサイルの発射命令を出した人物を特定するべく、公表されていた電話傍受の記録やロシア軍の幹部学校のサイトや軍人たちが情報交換をするサイトなどを調べていった。
ベリングキャットは事件から5年経った2019年、指示を出した容疑者たちを特定して報道した。ロシア政府の情報機関の幹部や元幹部らが含まれていた。撃墜事件を捜査する国際合同捜査チームも元幹部らのうち4人を殺人の疑いで起訴した。
これに対して、ロシアのプーチン大統領は疑惑を否定。ロシア政府はベリングキャットを名指しして、報道は「フェイクニュース」だと反論した。
ベリングキャットとニューヨーク・タイムズの協力など増える「連携の報道」
アメリカを代表する新聞社「ニューヨーク・タイムズ」は調査報道でピューリッツァー賞に幾度となく選ばれ、国際的にも定評があるメディアだが、「オープン・ソース・インベスティゲーション」のテクニックを使ってさらに充実したスクープを放ち、この分野の最高峰と言われている。世界中から集めたビジュアル・インベスティゲーション・チームという専門チームで調査や分析を進めている。その中にはべリングキャットから加わったクリスティアン・トリベートもいる。
2020年1月、176人が乗ったウクライナ航空の旅客機がイランで離陸直後に墜落して全員が死亡した。イラン当局は「事故」だと発表した。ところが、近所の住民がSNSに投稿した映像から、トリベートはヒギンズと連携して動画を解析し、旅客機の離陸直後にミサイルが当たって撃墜されたことを突き止めた。