ニューヨーク・タイムズの別の記者がアメリカの情報機関からイランの防空システムから2発のロシア製の地対空ミサイルが発射されていたという裏付けも取って、ニューヨーク・タイムズとべリングキャットは同時にこの事件は事故ではなく「撃墜」だと結論づけて事件の翌日に報道した。その2日後、イランのロウハニ大統領はイラン側が誤ってミサイルを発射し撃ち落としてしまったと認めた。
両者は連携プレーで事件の真相を暴いてみせたのだ。
オープン・ソースの動画や画像は増えている
この番組を見て明らかになってくるのは、中国やイラン、ウクライナ東部など厳しい言論統制が敷かれているような国や地域でもスマートフォンで動画を撮って、それをSNSにアップする人たちがいたり、いろいろな情報がネット上に公開されていたりするということだ。
新型コロナウイルスの震源となった中国・武漢では、感染初期の頃には体制が整わずに悲鳴のような声を上げる医師や看護師、患者らの動画が中国国内のSNSサイトに投稿されていたが、当局に検閲されたのかすべて削除されてしまった。しかし、しばらくしてYouTubeなどで再び見られるようになった。海外にもその実態を伝えたいと、政府に逆らって活動する人々が行ったことだった。
ベリングキャットからニューヨーク・タイムズに引き抜かれたクリスティアン・トリベートは行く先々でスマホで画像を撮って、その場所がどこなのかを当てさせるようなクイズをツイッターで出している。事件の真相を探る調査報道ばかりでなく、楽しみながらこの世界の謎に迫っていくという手法を日頃から実践しているのだ。
調査報道といっても張り込み取材や膨大な紙資料の照合などばかりではない、新しいスタイルのオープン・ソース・インベスティゲーション。
ニューヨーク・タイムズとベリングキャットなど報道機関同士の連携を見ると、何かと垣根が高い日本では実現が難しいだろうなとため息が出てくる。張り込み取材や隠し撮り、隠し録音などが得意な某週刊誌が、もしこの「オープン・ソース・インベスティゲーション」の方法を使えるようになったら……!? そんな妄想が膨らむ。ひょっとすると日本の報道にも革命的な変化が生まれるかもしれない。
BS1スペシャルで放送された時には各方面に衝撃を与え、科学ジャーナリスト賞とギャラクシー選奨に選ばれた。その「デジタルハンター~謎のネット調査集団を追う~」が、初めて地上波のNHK総合テレビで再放送される。6月6日(日)17時から「NHKドキュメンタリーセレクション」の枠、まだ見てない人にはオススメだ。