中国の習近平主席、ロシアのプーチン大統領ら超大国の首脳、あるいはシリアのアサド大統領のような独裁者が明るみに出そうとしない「不都合な真実」を調査報道の力で暴き出しているジャーナリストたちがいる。
世界中の報道機関が注目する方法
彼らの武器はラップトップのパソコンだけ。集団的な虐殺事件や民間航空機の墜落などの真相に迫ろうとインターネット上に存在する画像や映像を検証し、時には国家や組織の関与を暴いてみせる。こうした調査方法は「オープン・ソース・インベスティゲーション」(公開情報調査)と呼ばれ、いま世界中の報道機関が注目する方法だ。
昨年5月、NHKが「BS1スペシャル」で日本の報道機関として初めてその最前線を本格的に取材して番組にした。「デジタルハンター~謎のネット調査集団を追う~」。ネットを駆使した調査報道のやり方は革命と言えるもので衝撃を受けた。
ネット上の映像や画像を分析しながら「真相」に迫る。「デジタルハンター」という形容そのままに貪欲に獲物を探していく。だがハンターたちは20代前半の男性を筆頭にみな若く、一見どこにでもいそうな若者たちだ。
虐殺はいつ、どこで、誰が?
番組では、イギリスのBBCが行った「公開情報調査」を例に出す。
2018年7月にSNSで拡散された動画。見知らぬ国で自動小銃を手にした兵士らしい男らに荒地を歩かされている黒い肌の女性と子どもたち。次の場面で兵士らは無抵抗の女性らを次々に銃殺する。集団虐殺の場面はアフリカと思われるがどこか分からない正体不明の動画だ。
まず動画に写り込んだ現場の地形を、地図ソフトに映し出された3次元の地形と照合する。背景の山の稜線に注目して一致する地形を探り当てる。道路、建物、木々などが衛星から撮影された地図ソフトの画像と一致する場所を探し出す。行き着いたのはカメルーンのある村。隣国ナイジェリアとの国境まで数百メートルの地点だった。
そして動画に写り込んだ景色を過去の衛星画像と照合し、「季節」を絞り込むために動画に写る兵士の影に着目。太陽の位置と影の長さを割り出して方向を精密に計算した。その結果、撮影されたのは「2015年3月20日から4月5日までの間」と特定された。