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「メディアを避けるのは大坂なおみだけじゃない」サッカー・プレミアリーグ“取材機会減少”の副作用《英国記者が証言》

2021/06/06
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自分の言葉はSNS用のコンテンツ

 選手がメディアに話さないのは、「自身のSNS用に言葉を取っておく」というケースもある。チェルシーやアーセナルなど、主にロンドンのクラブを取材するA記者(仮名)はこう話す。

「近年の若い選手は、自らの言葉をSNSアカウントの“コンテンツ”と捉えているように見える。自身のSNSでファンと直接やりとりすることを好み、なぜわざわざそれをクラブやリーグ、既存メディアに渡さなければいけないのかと考えているのだろう」

2017シーズンの大坂は重圧やフラストレーションに悩んでいた ©文藝春秋

 選手たちの言い分にも理はあるが、弱ったのは既存メディアだ。選手の声が聞きにくくなった今、文字媒体のジャーナリストたちはどのように記事を執筆しているのだろうか。

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「現代のトップジャーナリストは、筆力だけでなく、コミュニケーション能力も高い必要がある」とA記者は続ける。「選手や代理人と良い関係を築ければ、独占的な取材機会を設けてもらえたりもするからね。パイプがなければクラブの広報担当に頼む必要があり、多くの場合は断られることになる」。

 一方、前出のジョリー記者はこう語る。

「以前より確実に難しくなったけれど、工夫の余地はある。どうしても選手のコメントが必要な場合は、クラブ公式サイトやテレビ媒体から引用することもできる。とはいえ、それは自分で聞いたものではないので、どう聞かれて答えた言葉なのか、全体の文脈がどういうものだったかは判然としないけれど」

本人発信だけでは足りないもの

 選手や代理人と良い関係を保つのもひとつだが、選手の直近の言葉を使わずとも、読者を楽しませるジャーナリストは確かに存在する。コミュニケーションスキルと同じくらい、スポーツそのものを見る目を養い、それを文章で伝える腕を磨くことが重要なのだろう。

 しかしメディアが単なる“媒介の機関”に留まるならば、以前ほどの重要性は見出しにくいだろう。選手の言葉をそのまま紹介するだけなら、SNSで十分に事足りる。

 ただしその発信からは、批判的なものが一切なくなり広告化するという副作用もある。鋭い疑問への答えが提示されることも限られるだろう。

 個人的にはスポーツはポジティブなものだと信じているが、本人が発信したいものだけではなく、社会で起きている問題や事象について、世界的なアスリートが意見を問われ、それに答えることには意味があると考える。それに肯定も否定も含め、さまざまな意見があってこそ、スポーツは前に進んでいくのではないだろうか。

 もちろん、選手の精神状態が損なわれないように、今後は記者会見でも運営側に配慮が求められるだろう。人種や性別についてあまりに礼節を欠いた質問をしたり、成績不振に陥った選手に何度も意地悪な問いかけをする記者がいたとすれば、イエローカードやレッドカードを出すことを検討してもいいのではないか。

©iStock.com

 選手、大会、チーム、ファン、スポンサー、そしてメディア。プロスポーツが現在の形で発展してきたのには理由がある。すべてが持ちつ持たれつの関係で発展してきたのがプロスポーツだが、時代の変化に応じてスポーツもまた変化する必要がある。選手やメディアを悪者にするのではなく、新たな姿を模索する機会になればいいと思う。

「メディアを避けるのは大坂なおみだけじゃない」サッカー・プレミアリーグ“取材機会減少”の副作用《英国記者が証言》

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