『おかえりモネ』はそうした、変わりつつあるNHKを象徴する作品
NHK、そして朝ドラはやはり変わりつつあるのではないか。『20%の呪い』を振り切るような総局長の会見と、次々と繰り出される品質の高いドラマを見ながら、そう思わずにはいられない。
その転換点はやはり2019年だったのではないか。「NHKをぶっ壊す」というスローガンを掲げる政党が100万票を集める一方、俳優の降板劇と視聴率バッシング報道の中で『いだてん』を高く評価し深く愛する視聴者たちの声をSNSで見ながら、NHKは自分たちが何者であるかというアイデンティティを再認識したのではないか。
まるで実りの秋を迎えたようなNHKドラマの豊作を見ながら、その種はあのころから蒔かれていたのではないかとふと思う。『いだてん』が脚本の中で描いたものは2つある。ひとつは五輪、そしてもうひとつはNHKの原点、草創期である。
どれほど高い視聴率を取ろうとも、「民放は無料なのになぜお前たちは金を取るのだ、こいつを潰せば払う金が減る」という声には反論することができない。
だが、民放が映すこともできなかった能年玲奈、改めのん主演のアニメ映画『この世界の片隅に』を放送し、稲垣吾郎や草彅剛で質の高いドラマを作り、BSプレミアムでは話題を呼んだ新作歌舞伎『風の谷のナウシカ』や、読売演劇大賞を受賞した鈴木杏の『殺意ストリップショウ』といった舞台演劇を放送し、高い評価を得るNHKは、必要なものが人気よりも信頼であること、「自分たちにしか作れないコンテンツ」への意志を固めつつあるように見える。
『おかえりモネ』はそうした、変わりつつあるNHKを象徴する作品に見える。クラウド、というカタカナ語には、作品の中で気象予測する雲、あるいはクラウドコンピューティングなどのCloudとは別に、群衆を意味するCrowdという単語をあてることもできる。
気象予報士が雲の動きを予測するように、NHKも総局長が語るように、これまでは知ることのできなかった群衆の動き、配信サービスなどで質の高い作品を求めるデータを把握しているのではないか。たとえ雨に叩かれ風に吹かれようとも、その嵐はいつか去るという自信がNHKにはあるのではないかと思う。