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2021/06/14

source : 文春文庫

genre : ニュース, 社会, 政治, 経済, 読書

検察の強引な取調べ批判に乗った小沢一郎

 検察審査会の小沢一郎起訴相当を受け、特捜部は再び石川から事情聴取をした。石川の気がかりは「小沢へ報告した」という供述だ。できれば再聴取でそこを削除させたい。だが、検事がおいそれと応じるとは思えない。そこで石川は、地検の再聴取にICレコーダーを隠し持ち、取調べの模様を録音した。結果的に証言を覆すことはできなかったが、そのときの取調べがいかにも強引で、誘導された、とみずからの初公判でICレコーダーの録音記録を証拠として提出したのである。

©文藝春秋

 そうして調書の任意性を争う。それが、大阪地検の証拠フロッピー改竄事件以降、吹き荒れる検察の強引な取調べ批判に乗った小沢一郎および秘書弁護団の作戦だ。

 検察側の冒頭陳述を終え、昼休みを挟んで午後1時15分から再開された初公判では、弁護側の冒頭陳述と双方の証拠調べがおこなわれた。そのなかで弁護側の切り札として朗読されたのが、ICレコーダーの録音記録である。5時間におよぶ取調べ速記録の抜粋だ。
 被告人席の真後ろに居並ぶ11人の小沢弁護団のなかでも、ひときわ若い女性弁護士が速記録を右手にとり、検事が石川に迫る様子を再現した。

「ベストなのは『今までの供述は事実です。小沢先生の認識は分かりません』だよ。(二度目の)起訴相当が出ると困るでしょ。供述を翻すと、(検察審査会の)思うつぼなんだよ。『やっぱり(小沢は)絶対権力者なんじゃん』てなる。小沢先生が組織ぐるみで口裏合わせしている、とかっていう印象は絶対よくないでしょ。今のところ、われわれの作戦は功を奏している。(小沢一郎を)裁判にかけたくないわけ」

 特捜部の検事は被告に味方するふりをし、それまでの自供を維持させようと誘導したと主張する。まさに現場を彷彿とさせる生の声に、傍聴席は静まり返った。そのうえで、弁護団の女性弁護士が水谷建設の裏金に触れた。取調室における検事の言葉尻を見逃さない。

「汚いカネだっていうのは、検察が勝手に言っているだけで、そんなのは別に水掛け論になるから……。いやいや、なんだかわかんないけど(土地を購入した4億円の中に水谷マネーが含まれている)証拠もないしね、細かいことは(あなたも)言ってないし、噛み合わないね」

 あたかも検事に、水谷建設による裏献金に確証がなかったかのように聞こえる。法廷はますます静まり返り、女性弁護士の声だけが妙に響いた。真に迫る朗読だ。新聞やテレビの記者たちが傍聴席から次々と立ちあがり、法廷の外に出て行く。会社に報告するためだろう。法廷がざわめき始めた。