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2021/06/14

source : 文春文庫

genre : ニュース, 社会, 政治, 経済, 読書

検事が用意していた切り札

 そして女性弁護士の朗読が終わると、裁判長が検事側に尋ねた。

「検察官、何か補足がありますか」

 すると公判検事が、A4用紙の束を持って立ちあがった。

「では、こちらのほうを朗読していただければ」

 検察側が準備していたのは、弁護団が朗読した録音速記録から抜け落ちていた取調室でのやりとりだった。右陪席の判事がその部分を手に取り、読みあげた。再び、法廷に静寂が戻る。

「録音してるんじゃないの?」

 取調べ検事の問いに、石川が答えていた。

©iStock.com

「そんなはずありません」

 弁護側の朗読のときは検事の発言に終始していたが、今度は逆に石川の発言が目立つ。

「無罪は、ありえないわけだし……、私はどうすればいいのでしょうか」

石川が漏らしていたとされる発言

 そう弱音を吐く。そこから石川自身が水谷建設の裏献金について答える。さすがに否定している。が、うっかり次のような本音も漏らす。

「大久保さんと水谷さんはこんなに親しかったんだな、と改めて思いました。高橋嘉信(編集部注:小沢一郎氏の秘書を経て衆議院議員になった人物。水谷建設の担当窓口だった)のころからの(付き合いで)。ただ、大久保さん、ちょこちょこもらっているのはあっても、5000万円の2回はないと言うんですよね」

 そしてこう続けた。

「だから4億円を隠したいのが、第一ではないんですよ。やはり不動産の購入で、痛くもない腹を探られるというのが第一。だから(4億円は)2番手なんです。小沢さんの4億円は、どうしても引っかかるんです」

 かなり微妙な言いまわしである。世田谷の土地を買ったのは小沢から預かった4億円を含めた手持ち資金である。その4億円をはじめ、是が非でも、それらの資金工作を隠そうとした意図だけは否定しておきたい。そんな心情が見え隠れする。

 もとより、石川はこの再聴取に臨むにあたり、弁護団と綿密な打ち合わせをしてきたに違いない。それでいて、ついこのような供述をしてしまったのは、取調べ検事の腕がいいからかもしれない。検察側が提示した録音記録が読み進められるにつれ、11人の弁護団の大半が、苦虫をかみつぶしたような表情に変わる。そうして静寂に支配された法廷は、よりいっそう重苦しい緊張感に包まれていった。

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