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「小沢事務所に1億円を運んだ」汚れた裏金を自在に操ってきた“政商”が獄中で告白した言葉の禍々しい“真意”

『泥のカネ 裏金王・水谷功と権力者の饗宴』より #38

2021/06/14

source : 文春文庫

genre : ニュース, 社会, 政治, 経済, 読書

「勝手に作文している」

 かたやこれに対する小沢側の反撃が、運転手の抱き込み作戦だ。水谷功の側近を通じて運転手の説得に成功したとされる。結果、小沢側が弁護側証人として運転手を申請し、地裁に認められたのである。

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「6年以上前のことを鮮明に記憶し、供述できるわけがない、と調書の任意性を争う戦法です。手帳にはホテルとはあるが、全日空とは書いていない。そもそも記憶がないのですから、調書の記述が誘導によるものだとしているわけです。ホテルの前で30分待ったという供述は、検事から『一般論としてホテルの玄関前でどのくらい待てるか』と尋ねられて答えたものであり、それを勝手に作文しているという趣旨です」(前出・水谷建設関係者)

 なにしろ04年10月といえば、6年半も前の出来事だ。たしかに記憶は定かではないだろう。おまけに、小沢サイドには昨今の検察不信という追い風も吹いている。それを最大限に利用し、逆に運転手から曖昧な記憶だという証言を引き出そうとしたのである。こうして水谷建設の運転手まで証言台に立つことが予定される。

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 それが通用するかどうか。当の川村に尋ねてみた。すると、こう話すのみだ。

「向こうは向こうで、一生懸命考えた上でかく乱したり、味方に引き入れたりと戦略を練っているのでしょう。だから、それに私がああだこうだとは言えません」

 小沢側は、最終手段として、川村のネコババ説まで主張しそうだという。だが、とても奏功するとは思えない。川村の弁――。

「ちょこちょこもらっているのはあっても、5000万円の2回はないと(大久保は)言うんですよね」

 ICレコーダーの録音にあるように、そう石川が取調べ検事にうっかり漏らした件については、あくまで大久保が否定しているという話だ。この言葉の裏には、「自分自身はクロネコヤマトの紙袋に入った現金を確認しているわけではないから知らない」という意味が隠されている、と考えるのは、うがちすぎだろうか。

「胆沢ダム 大久保 10万円」という走り書き

 水谷建設の川村は、石川とはほとんど面識がなく、大久保に全日空ホテルへ金を届けるよう指示されても顔を思い浮かべることができなかったという。特捜部に対し川村は、全日空ホテルの喫茶店でコーヒーを飲んだわけでもなく、ロビーの椅子に座って宅配便の紙袋を置いてきただけだと供述している。

 なにより水谷建設からの四度の裏献金のうち、他の三度には日本発破技研の山本が立ち会っている。石川の一度だけが違っているということがありえるだろうか。

 ついに始まった秘書たちの公判。そこでは、新事実が次々と浮き彫りになっていった。石川知裕が後任の池田光智へ会計業務を引き継いだ際、書きとめられた大学ノートの存在も発覚した。そこには「胆沢ダム 大久保 10万円」と走り書きされているという。いかにも含みのあるメモ書きだ。