会社を解雇後は夜の仕事へ
解雇直後、すぐに仕事が必要だった。何かと気を揉む実家に戻らねばならなくなることを何よりも恐れていたので、ゆっくり療養する暇などなかったが、3カ月で転職という履歴は採用を得るには見栄えが悪かった。何より、フルタイムで問題なく働ける体調にすぐ戻るはずもなく、まずは銀座のホステスとして当座の生活費を捻出することにした。少しでも体を休める時間を確保したかったから、短時間で高額が稼げる「夜の仕事」はありがたかった。数カ月働いたのち、「お触り」のひどさでホステスを辞め、どうせ触られるのならば、と風俗店の求人も視野に入れた矢先に見つけたのが、女性間風俗だ。
『さびしすぎてレズ風俗に行きましたレポ』という名のエッセイ漫画がSNSを中心に話題となったのは、2016年の終わり頃だろうか。母親との接し方に難しさを感じている著者が女性間風俗に行ったら、人肌の温もりと抱きしめられる感覚で意外な気づきと癒しを得たという内容で、反響の大きさから、著者と同じような経験を期待した人の来店が増えそうだと感じた。そして、挫折と立ち直りの真っただ中に居る自分だからこそ、そのような深いところにある話を聞き、癒しの時間を作れるという自負が生まれた。すぐに情報を集め、入店希望を出した中でも、面接までスムーズに案内してくれたところに在籍を決めたのは、2017年5月のことだ。
一方では、昼間の仕事に戻る望みを捨てられずにいた。社員を目指して体調を何度も崩しては欠勤と退職を繰り返していたが、次第にフルタイム勤務がうまくできない理由が自分でも分かってきた。
「不快の源」に過敏になってしまう…
さまざまな「不快の源」に過敏になってしまうわたしには、職場の人が発する不穏さが耐えがたくつらい。言葉として形にされなくても、わたしに直接向けられたものでなくても、その人の視線、呼吸、語調や貧乏ゆすりまでの濃淡ある多種多様な負の感情が、フロア中から濁流のように押し寄せるのが感じられる。それらが実家での記憶を呼び起こさせるのか、相手を刺激しないように細心の注意を払って、ときに先回りして「相手の不快を和らげる行動」をしてしまう。素敵な上司や先輩に恵まれた職場でも、業務範囲を超えた気配りを毎日長時間していれば疲弊するのは当然で、やがては出社ができなくなってしまうのだ。
自分のことがわかっていないと、周囲に対して「これはできて、これは難しい。でもここまでなら可能だから、迷惑を減らせるようにこう対策したい」という擦り合わせができない。だから与えられた環境に順応できる日が来るはずだと信じて愚直に頑張り、「出来ない自分は甘えているに違いない」と自責してきた。しかし、カウンセリングによる自己理解とさまざまな職場での人との関わりが、一つずつ「甘えかもしれない」と感じる要素をつぶしてくれ、「“普通”に働けること」への固執からわたしを抜け出させてくれたのだ。2年かけてやっと、わたしは自分の「不可能性」に辿りついた。そして、それは自分ひとりで道を切り拓くことの覚悟を連れてきた。同時期に、在籍している女性間風俗の店長が、独立して店を出さないかと打診してきていたのは、必然だったのかもしれない。