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「センシティブな『性』の話題をいかにして話してもらうのか」  “女性間風俗”オーナーが語る「対話の場」の重要性

2021/06/13
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 一流大学を卒業し、エリートとして新卒で企業に入社したはずなのに、心の病で3カ月でクビに――そんな世間の荒波の直撃を受けたある女性が、悩んだ末に選んだ次のフィールドは…なんと「女性間風俗」の世界だった。現在、対話型女性間風俗店「Relieve(リリーヴ)」を経営している橘みつさんが考える、コロナ禍の中で感じた「マイノリティの性愛」に大切なものとは?(全2回の2回目/前編を読む

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自分に向き合おうと決めた人に寄り添う90分

 2018年2月に独立してから、丸3年が経った。自身の苦難とお客様とのかかわりをまとめた本を出し、各種メディアへの出演や執筆の依頼を貰うなど、順調にキャリアを積み上げてきたが、コロナ禍で再び苦境に立たされている。風俗業が感染症と隣り合わせなのは平時も同じだが、世界的なコロナウイルスの流行は性感染症よりも社会的な影響範囲が広く、顧客心理はマイナス方向に大きく振れた。月間の売上は5~7割程下がり、1カ月後の生活を心配する日々に逆戻りしている。今まで、対話をウリにした風俗店であるリリーヴには、話だけを目的に訪れるお客様もいた。しかし、感染症の流行と共に「夜の街」全体が敵視されたり、感染経路の把握に協力しなければならなくなったり、会社から行動の記録を取られるようになったりした中では、どのような動機の利用であっても、萎縮したムードが漂っている。

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©iStock.com

 そんな日々でわたしが信じ続けられることといえば、対話の持つ可能性だけだ。2021年5月、風俗業とは別に新しくコーチングのような対話サービス「Cozy Dialogue」を始めた。

 リリーヴでの対話タイムは、「背負ってきたものをおろして一息ついてもらう労いの時間」を意識していた。風俗店である以上、楽しさや癒しといった娯楽性を消してはならないと思ったし、がんばった日々に対するご褒美の時間を提供することは、自身と向き合う機会と同等に大切にすべきだと考えているからだ。だからこそ、お客様に伝えず心に仕舞った気づきも今までにたくさんある。

橘みつさん ©Rimi Watanabe

コロナでグッと身近になった死の可能性

 コロナをきっかけに生活が一変した人は多い。仕事の仕方はもちろん、死の可能性がグッと身近に感じられるようになった中で、自分の内面を見つめ、考えを深める機会を得たいと思う人が増えるのは必然だ。信じるべき情報と信じたいことが相反し、自己責任で選択することが求められるようになった世界で、甘く優しい娯楽ではなく、現実に沿った鋭い切り口が求められている実感がある。そんな日々にひとりで立ち向かう苦しさと心細さを、わたしはよく知っている。

 そうした人に寄り添うべく始めた対話サービスでは、自分に向き合おうと決めた人と90分間対話(=セッション)をする。クライアントの性別は問わないし、テーマも人によってさまざまだが、女性向け風俗店を経営している経歴から、やはり「性」や「愛」について扱うことが多い。