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星野源「こじらせ中年」を演じさせたら日本一? 役者としての魅力を超濃厚解説

2021/06/13
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星野源「こじらせ三部作」の共通項

 結婚のきっかけになった『逃げるは恥だが役に立つ』(2016年・TBS)の津崎平匡役も、この天雫に通ずるモノがあった。潔癖症の一歩手前、生活信条にこだわりがある「プロの独身」だ。

星野源公式Instagramより

 

 インテリジェンスと経済力とそれなりのデリカシーを持つ津崎が、家事代行を完璧にこなす知的な女性・森山みくり(新垣結衣)と出会い、「契約結婚」から愛を育んでいく物語。初夜に逃げる臆病な一面はあったものの、思いやりといたわりはちゃんとある。なんつっても「上に立つでも、下手に出るでもなく、対等な関係で話し合いができる」男を見事に体現したのだ。

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 最新の「こじらせモノ」は、映画『引っ越し大名!』(2019年)の片桐春之介役。姫路藩の書庫番という地味で影の薄い男なのだが、本好きが高じて博識ではある。ただし、武芸の才は皆無。藩の中では皆から小馬鹿にされ、カタツムリと呼ばれている。

 姫路藩では度重なる国替え(藩の引越し)で台所は火の車。しかも引越を仕切っていた名奉行が亡くなるという危機的状況。その代理を押し付けられるのが春之介だ。幼馴染で刀番の源右衛門(腕も立つし手も早い高橋一生)、亡くなった奉行の娘・於蘭(高畑充希)とともに、無理難題の超低予算国替えを成功させる。しかも出戻り&子持ちの於蘭と結ばれ、最終的には国家老まで昇進する。

ドラマ「逃げるは恥だが役に立つ」で共演した新垣結衣さんと(2017年) ©時事通信社

 ということで、星野源「こじらせ三部作」の共通項が揃った。「インテリで博識」だが「非社交的」で「不遇」、「経済力あり」だが「人、特に女性を決して下に見ない」、それゆえに「幸福な結末(童貞も無事卒業)」を迎える。未経験の男性に勇気と希望を与えつつ、心構えと矜持も叩き込んでくれるのでいいお手本だ。

 今は容姿端麗だが力や圧や我が強い男性より、知性と配慮と敬意と柔らかさのある男性のほうが結果的に女性票を獲得する時代。そこに星野源はピタッとハマったのだ。

とにかく巻き込まれる災難体質

『引っ越し大名!』では気の弱さにつけこまれる、いわば「巻き込まれ」系だが、星野源が遭遇する災難はまだまだある。しかも、わりと頻繁に劇中で死にかける。

 映画『地獄でなぜ悪い』(2013年)ではヤクザの娘で元人気子役のミツコ(二階堂ふみ)に騙され、極道の抗争に巻き込まれる役。

 偶然出会ったミツコに10万円で「1日恋人のフリをしてほしい」と頼まれ、鼻の下を伸ばして無償で快諾するも、それが地獄の一丁目。災難に巻き込まれたときの星野源は、最高におかしい。

 実はこの映画、劇中でまっとうな小市民は星野だけ。日本刀や拳銃で極悪非道に暴れまくるヤクザ(國村隼や堤真一)、テンションと思考回路が異様な映画オタク(長谷川博己)、恋したミツコは残虐極まりないドS娘。

 たった一日の偽装恋人のはずが命を狙われ、大量のコカインにまみれて右腕は切り落とされるわ頭に刀刺さるわの一大事。無茶ぶりと暴力に白目を剝きながらも、ミツコを守ろうと超微力ながらナイト気取り。星野源の表情がいちいち切なくて、いちいち可笑しいのだ。