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「漫画も気象予報士も外国語も、全部やらないと食べていけないから」 矢部太郎が語る“漫画が評価されたとき”の“米屋”のような気持ち

矢部太郎さんインタビュー#2

2021/06/20
note

お父さんの帽子

――「父親が絵本作家」というのは、子どもにとって自慢でしたか。

 自慢というか……。いつも家で絵を描いているし、どこに行っても絵を描くので、ほかのお父さんとはちょっと違うなと思っていました。ほかのお父さんは毎日スーツを着て会社に行くのに、うちはいかないし、いつも帽子をかぶっているし、「変わってる」なと。

――漫画に登場する帽子も独特です。お父さんの手作りなのですか。

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 僕の中のイメージで描いたらああなったんですが、後から昔の写真を送ってもらったら普通の帽子で、記憶と全然違っていました。あれはさすがにお父さんからも「電気スタンドのカサみたいで、ちょっと変」と言われました(笑)。

 でもつい先日も「100円ショップの300円コーナーに似ている帽子があった」と買ってかぶっているそうなので、あのタイプの帽子は気に入っているんだと思います。

 

お米屋さんなのに、お米以外のものを置いている、みたいな

――漫画家としても高い評価を受けておられる矢部さんですが、「芸人」「俳優」「漫画家」など違うジャンルで活躍することに葛藤を感じたり、違和感を覚えたりすることはありませんか。

 漫画を評価していただけるのは「芸人が描いた」ということで、かなり下駄を履かせてもらっているからだと思っています。俳優として声をかけていただけるのも芸人だからだし、漫画を読んでもらえるのも芸人だから。なので自分では「本物の俳優さんや漫画家の方とは違う」と思ってやっているところがあって、そこに対しての葛藤や違和感はありません。

 気象予報士の資格を取ったのも、外国語を習得したのも、全部やらないと食べていけないからやっているだけなので、どれが本当の自分か、みたいな悩みや葛藤も、まったくないです。むしろ、芸人だから何でもやれてラッキーだなと思っています。

 本当はお米屋さんなのに、お米以外のものを置いている、みたいな感じなんですかね。週刊誌とかも売ったりして、米屋なのか本屋なのかわからなくなる、みたいな。えー……、たとえが悪かったですね。苦しくなってきました(笑)。でも、漫画で声をかけてもらえるのは嬉しいです。