悲願の200勝達成まで、一歩ずつ着実に歩む
雨が強くなったり、弱くなったり、不安定な夜空が広がっていた。しかし、この日のヤクルト打線はまったく湿り気のない、カラッとした爽快な一打が飛び交うことになる。2回裏には山田哲人が3ランホームランを放ち、3回裏には青木宣親が2号2ラン、さらに村上宗隆がライトスタンドに16号2ランを放つ怒涛の攻撃を披露する。3回終了時点で10対1。文句のない試合展開だった。
双眼鏡越しに見る石川の姿に変化はない。大量援護を受けてもなお、厳しい表情を崩すことなく、丁寧に丁寧に投球を続けている。バックネット裏の席は変化球の球筋がとてもよく見える。緩急自在のピッチングで山賊打線が翻弄されている姿を見ながら、「これが一流の投球術なのだ」と再認識する。それは「芸術鑑賞」と言ってもいい、優雅で贅沢な時間だった。
雨脚は強くなり、5回裏ヤクルトの攻撃中に試合は中断。そして、39分後に降雨コールドゲームでヤクルトの勝利が決まった。石川は5回1失点の好投を披露し、20年連続勝利を達成する。これで、通算174勝目。200勝まで、「残り26勝」とした。残念だったのはヒーローインタビューが行われなかったことだ。最後の最後まで表情を緩めることのなかった石川は、ファンの前でどんな表情になり、どのような言葉を発するのかが知りたかった。
石川本人からの歓喜のLINE
その日の夜、石川本人から、歓喜のLINEが届いた。そこには、こんな言葉が書かれていた。
「いままでで一番嬉しい勝利かもです」
プロ20年目を迎えた今季の石川は、本気でキャリアハイ更新を目指している。もちろん、その先に見据えるのは悲願の200勝だ。石川はこんな言葉も残している。
「自分で自分の限界を決めてしまっては絶対にダメだと思います。以前から言っているように、僕は200勝を目標にしています。でも、200勝を目指していたら、185勝ぐらいで引退すると思うんです。200勝を目指すには、やっぱり、220から230勝する気持ちじゃないと。現状維持を目指しているうちは現状維持はできないですから」
世間には「200勝なんて無理だよ」と冷笑する風潮があることは知っている。しかし、僕はすでに、石川の言葉に「洗脳」されている。本人が固くそう信じているのならば、伴走するノンフィクションライターもまた、固くそう信じるのは当然ではないか? 何の疑いも迷いもなく、僕はそう思っているのだ。
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