「最後の勝負」をかけるために。父とのマンツーマンの自主トレを敢行
「最後の勝負」をかける直前、川端は末吉さんを伴ってマンツーマンの自主トレを行っている。場所は愛媛・松山。毎年1月の合同自主トレや、秋季キャンプの舞台でもある坊っちゃんスタジアムを2週間ほど借り切って、朝から夕方まで親子水入らずで汗を流した。
「僕からしたら『お父さん、ちょっと手伝ってくれ』って言うてくれただけでもね、もう涙が出るくらい嬉しかったです。この老体にムチ打って、1000(球)、2000(球)って投げました。トスから、緩いボールから速いボールまでいろんなボールを投げて、肘が腫れあがってしまいましたけど、頑張りましたよ。もう潰れてもええわ! っていう気でおりましたんでね。しんどいとか痛いとかナシに、嬉しかったですね」
2020年1月に徳島で手術を終えた川端は、新型コロナウイルス感染拡大の影響で開幕が大幅に遅れたこの年、主に代打で39試合に出場。結果は芳しいものではなかったが、シーズン後半はファームでじっくりとフォーム固めを行い、11月には志願してフェニックス・リーグにも参加する。そして12月、再び松山で父との自主トレに臨んだ。
「去年はもうコロナとかいろいろあったんでね、2、3日しか行けなかったんですけど、朝から夕方までみっちりやりました。たぶん親父ともう1回、イチからっていう気持ちがあったんじゃないですかね。僕も最後の手伝いができたらって思うてね、必死になってやりました。それで今年はちょっといい結果が出て、なんとか頑張ってくれてるんで、本当に嬉しいですよ」
言葉の端々から感じられるのは、息子に対する“父の愛”である。そんな末吉さんにとって今シーズンの川端の活躍、そして父の日に飛び出した3年ぶりのホームランは、その言葉どおり「最高のプレゼント」になったはずだ。
これはよく知られていることだが、川端には友紀さんという妹がいて、女子プロ野球で首位打者に3度、打点王に1度輝いている。つまり兄妹そろってプロの世界で首位打者になっているわけで、末吉さんも「もう思いどおりっちゅうか、それ以上ですね。僕が思った以上に2人とも頑張ってくれてるんで、本当に幸せですよ」と話しているように、野球人にとってこんなに親孝行な息子・娘もいないだろう。
末吉さん自身は、貝塚ヤングを率いて13年目の2018年に、ヤングリーグ選手権大会で悲願の全国制覇。当時のメンバーからは投手の小園健太、捕手の松川虎生らが川端の母校である市立和歌山高に進学し、今春の甲子園大会に出場している。父としてのみならず、指導者としても最高の人生を歩んでいるように見えるが、末吉さんには“最後”の夢があるという。
「慎吾にはもう一度スタメンでやってほしい、できれば……」
「慎吾にはもう一度、スタメンでやってほしいですね。できれば三塁を守ってるところが見たいですけど、こればっかりはチーム事情があるんでね。出してもらえるところならどこでもいいですけど、もう一度スタメンで活躍するところを見たいです。ホンマ、最後の夢です」
現在セ・リーグ2位で、首位の阪神を追うヤクルトにとって、川端は代打の切り札として欠かすことのできない存在であり、現状ではスタメンでの起用というのは考えにくい。ただし、チャンスはいつ巡ってくるか分からない。来年以降も十分に可能性はある。
「そうかもしれないですね。まだ引退せなアカンって歳でもないですからね。とにかくもう一度、夢を見させてほしいです。実際は僕らが思うてるほど簡単なものじゃないですけど、慎吾ならやってくれるんじゃないかなって、心の中では期待してます」
その言葉にもまた、末吉さんの息子への愛があふれていた。
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