2021年6月23日、水曜日。
いつか月日が流れ、誰かがこの日のプロ野球データブックを紐解いたら、この「6.23」はオリックス・バファローズが37年ぶり(阪急ブレーブス時代!)に11連勝の記録を打ち立てた日、という認識になるだろう。
だがしかし!! その輝かしい「記録」の影でひっそりと、しかし確実に更新された一つの「記憶」があった。
色褪せた名言「勝つ! 勝つ! 勝ーーつ!」
あー、巨人だから山口俊お帰りコラム? と思った方、すんません。
確かに年俸3000万の逆輸入助っ人、642日ぶりの勝利おめでとう! っていう気持ちはある!
やっぱ山口は地方球場のマウンド似合うよねー、3年前プロ野球死亡遊戯こと中溝さんと宇都宮清原球場で観たなー、あん時の岡本のレフトへの3ランは夜空に白球が浮かび上がってドラマチックだったなー、コロナ禍前の観戦は楽しかったなー……。って違う。
あー「記憶」って話ならアレか、五輪中断中の有観客エキシビションで60年ぶりの函館での日ハム戦か。それに弾丸で行くぜ的な? って話でもない。
朝市もラッキーピエロも魅力的だが、労働者は急遽函館には飛べないのだ。
てか、1961年ってキャッチャー森でショート広岡よ? まだV9前だから!!
そしておれは海老沢泰久ではない。無理だ。
果たしてその更新された「記憶」とは!?
それが、長嶋茂雄終身名誉監督によって、27年ぶりに産み出された新しいパンチライン「もう大丈夫」である!!!
1994年、伝説の10.8決戦前、名古屋都ホテル5階にあるサロン・ド・都にて爆誕した、プロ野球史上に燦然と輝くパンチライン「勝つ! 勝つ! 勝ーーつ!」。
鷲田康の超・名著『10.8 巨人vs.中日 史上最高の決戦』(文春文庫)を改めて読むと、そのミーティングにおける長嶋監督のアジテーションによってチームがいわゆる一つのトランス状態となり、選手たちが雄叫びをあげた様や、そもそも「勝つ」実は1回しか言っていない説と3回言った説の検証などが克明に記され、何回読み返しても「お、おもしれぇ……」と溜息が出るのだが、それは置いといて。
メークミラクル、メークレジェンド、いつだってその言葉は奇跡を起こし、勝利と歓喜を運んできた。
が、27年の歳月は長い。神通力も言霊も無限に使える訳じゃない。
星野仙一とマー君の引き立て役となった2013日本シリーズ、未だ暗黒の最中にいる2019、2020でのシリーズ8連敗。
それらの屈辱は「勝つ勝つ勝つ」のインフレーションを意味していた。
似た例だとアントニオ猪木の「1、2、3、ダァーッ!」がある。
1990年2月10日、東京ドーム(闘強導夢)にて「ご唱和ください」と枕詞を付けられ、熱狂と共に広まっていった「ダー」は、やがてTVで、CMで、講演会などで乱発されてゆく度にほんの少しずつ、しかし確かに色褪せていった。
報知の長嶋コラムのタイトルではビミョーなロゴに変換され、最近では若干のネタ扱い。「監督、ちょっとアレ一発頼みます! 盛り上がるんで!!」的なノリにやるせない思いを感じていた。もう駄目なのか。