交流戦を4位で終えたものの、依然借金生活が続くドラゴンズ。文春野球コラムでCBC若狭アナが指摘されたように「入れ替えが少ない中日」だったが、今月に入って溝脇隼人、岡野祐一郎、郡司裕也といった2軍で結果を出した選手が1軍に上がり始めた。ウエスタン・リーグでは中日ドラゴンズは2位と好位置につけており、巻き返しのためにも2軍で好調な選手の昇格はより増えてくるだろう。

「昌さんにやってもらったことが指導者としての原点」

 そこでプロ初昇格に手が届きそうなのが、ドラフト2位ルーキーの森博人だ。6月3日広島戦での初先発で、鈴木誠也から三振を奪うなど3回を無失点に抑えて以降、6月9日ソフトバンク戦も3回無失点、6月20日オリックス戦を5回1失点と好調を維持している。

 そんな森の「恩師」が、中日ドラゴンズOBであり、現在は森の母校である日本体育大学野球部で投手コーチを務めている辻孟彦だ。

ADVERTISEMENT

辻孟彦さん ©カルロス矢吹

「森を初めて見たのは彼が高校2年生の時、中学生か?っていうくらい痩せてて176cmあるのに64kgしかなかったんですよ」

 在りし日の教え子の姿を懐かしむ辻は2011年ドラフト4位で指名され、日本体育大学から中日ドラゴンズに入団。3年間で13試合に登板して、通算0勝0敗。2014年に戦力外通告を受けて現役を引退し、翌2015年に母校の野球部コーチに就任した。辻が指導した大貫晋一(横浜)、松本航(西武)、東妻勇輔(ロッテ)、吉田大喜(ヤクルト)そして森の5名がプロ入りを果たした。名コーチとしてその育成手腕には大きな注目が集まっているが、辻は元々「教える」ことに魅力を感じていたという。

「小学生の頃は、教師になりたいなと思ってたんですよ。大学に入って、その時はもちろんプロ野球選手になりたかったんですけど、行く行くは指導者になって、野球にずっと携わっていきたいなと思っていました。後輩にアドバイスするのも好きでしたし、ドラゴンズのトレーナーさんの話も“こういう風に身体を使えばいいんだな”って思いながら聞いていたんですよね。ただ、実際にコーチになった当初は何していいかわからなくて、誘ってくださった古城(隆利)監督に“何すればいいですか?”って聞いていました。初めの方は本当にただいるだけで、4年生の学生コーチに聞きながらメニューを組んでましたね」

 手探りで自身の指導法をゼロから作り上げていく過程で、ドラゴンズでの経験も辻の血肉となっていた。

「ドラゴンズで一番お世話になったのは、山本昌さん。プロ2年目くらいから、キャッチボールもペアで、ずっとやってもらって。若手の練習が終わってからも“もっとこうした方がいいんじゃないか?”って、全く偉そうにしないで、同じ目線で同じ言葉遣いで接してくれて。あれだけ実績のある方が、まだ1勝もしてない選手に。そうすると“僕はこう思うんですよ”っていうことも言いやすいんですよね、昌さんはそういう空気を作ってくれてたんです。コーチになってわかったんですけど、それって指導していく上で凄く大事なんですよ。特に、高校生や大学生にとっては。昌さんにやってもらったことっていうのが、僕の中では指導者としての原点なんですよね」