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「光」そのもののポートレート

「普遍」に通ずる作品づくりのために、光をテーマに据えているというわけだ。では光を扱う創作に写真という手法を用いるのはなぜ?

「僕が写真を撮り始めたのは10歳のとき。家にあったカメラをたまたま手にして、すぐ夢中になりました。中学生になって、暗室での写真現像を初体験しました。現像液に印画紙を浸してみると像が浮かび上がってきた。あの驚きと歓びは忘れられない。いまだにその感動を胸に、写真を撮り続けています。それは同時に『写真でなければ表現できないものは何か』ということを考え続けるということです。そして自然と、写真をつくりあげる重要な要素である『光』をテーマにするようになりました。僕にとっては、光を意識しその姿を撮ってみたいと思うようになったのはごく自然なことだったんです」

小野祐次 Luminescence #20 2005, gelatin silver print, image: 116.4x89.1cm ©Yuji Ono, courtesy of ShugoArts

 なるほど、ただ……。それ自体にはかたちも色もない光そのものを写すというのは、なかなかの難題では?

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「そうですね、難しいです。そこで思考を重ね、さまざまな試みを行った結果、シャンデリアを通した光を撮る方法へと行き着きました。撮影現場ではどんなに歴史的な価値を持つシャンデリアも、光を見るための一種の装置としてのみ機能します。シャンデリアの姿がくっきり浮かび上がっているように見えますが、実はどこにも焦点が合っていません。被写体であるシャンデリア自体にピントを合わせてしまうと、人間の意識もその意味や付随する情報に引き寄せられてしまいますが、それは本意ではない。余分な要素はできるだけ削ぎ落とし、純粋な光の痕跡として写し取り、観る人に提示できればと思っています」

小野祐次「Luminescence 」展示風景, 2021, シュウゴアーツ 撮影者:武藤滋生 ©Yuji Ono, courtesy of ShugoArts

 これはいわば「光のポートレート」と言えそうだ。この純粋かつ根源的な表現にギャラリーでじかに触れる体験は、うまくすれば「永遠」を垣間見られるひとときとなるかもしれない。