あわや宝塚線脱線事故並みの大惨事も
2021年3月26日午前0時過ぎには、茨城県土浦市でJR常磐線の線路内に放置されていた乗用車に列車が衝突する事故が起きた。6月上旬になり、26歳のベトナム人の工員男性が道交法違反容疑(無免許運転)で茨城県警に逮捕されていたことが判明。常磐線事件とも関係があるものとして捜査が進められている。
報道によれば、この事故の直前、深夜にライトを点灯せずに走行している不審な車両をパトカーがサイレンを鳴らした状態で追跡していたという。
対して車両は100キロ以上の猛スピードで逃走。現場から500メートルほど離れた場所でパトカーを振り切ったものの、民家の塀にぶつかったあとフェンスを突き破って線路に侵入した。運転していた男は車両を乗り捨てて立ち去り、そこに列車が突っ込んで脱線・炎上した。
衝突した列車はほぼ終電に近い時間帯のもので、しかもコロナ禍の影響で深夜の乗客が少なかったため、さいわい乗客乗員64人にけがはなかった。ただ、復旧作業が大急ぎで進められたものの、JR常磐線の運転再開は同日17時50分までかかり、JR側にも通勤客にも多大な経済的損失を出した。なにより事故それ自体が、一歩間違えれば2005年に107人が死亡したJR宝塚線脱線事故のような大惨事になっても不思議ではないものだった。
この事件は、無謀な逃走行為や事故現場から立ち去る行動パターン、無免許運転、逮捕された容疑者(一応、容疑は常磐線事件とは無関係)の年齢・国籍・職業などの各要素から考える限り、ジエウによる死亡ひき逃げ事件と同じく、ボドイかそれに近い人物により引き起こされた可能性が非常に高い。
ベトナム国内の「低度人材」輸入システム
常磐線炎上事件の犯人の絞り込みに時間がかかったのは、警察が国内のボドイたちの動向をほとんどつかめていないことが大きな理由であるはずだろう。
私は昨年以来、拙著『「低度」外国人材』や文春オンラインの記事のなかで、豚解体、無免許運転やひき逃げ、同胞間での賭博と拉致、トバシの携帯電話や無車検車両の売買といった一連のボドイ犯罪をしばしば描いてきた。いずれも日本の外国人労働者受け入れ政策の限界と、地方社会の秩序の融解を象徴している話ばかりだ。
技能実習制度は事実上、発展途上国の「情報弱者」の若者たちに夢を見せることで、彼らの基本的人権を抑圧した状態で日本国内における低賃金労働力として充当するシステムだ。個々の実習生には真面目な人も多い、雇用先には良心的な会社もある──、といった個別の事例はさておき、全体としては問題が大きい制度だ。
こうした仕組みに積極的に組み込まれるベトナム側の若者には、現地の社会でも決して優秀とはいえない層の人たちも必然的に多く含まれる。判断力や計画性に欠け、場当たり的な行動をする「騙されやすい」人が、わざわざ選抜して輸入されているような側面すらあるからだ。
──とはいえ、岡山県の漁村Zでの取材からは、ベトナム人労働者側の問題だけではない側面も多々見えてきた。こちらについては次回の記事でみていこう。
(後編に続く)