「負くっか魂」が呼び込んだ逆転V
試合は同点のまま延長戦に突入。巨人・藤田元司監督は、志願して続投した江川を10回途中で諦め、角にスイッチ。中日はその角を攻め立て、2死一・二塁とサヨナラのチャンスを作った。大島さんは言う。
「あのときベンチの中で、座ってた選手は誰一人いなかったですね。全員が立って、この一戦に賭けていたんです」
ここで、9回に四番・谷沢の代走で途中出場した尾上旭に打順が回った。次打者の大島さんは、打席に向かう尾上に、こう告げた。
「とにかくオレまで回せ! オレまで回したら、なんとかなるから!」
チームメイトにそんなことを言ったのは初めてだったが、つい口を突いて出てしまったそうだ。その気迫が乗り移ったのか、尾上は粘って四球を選び、二死満塁で大島さんに打席が回ってきた。逆転Vのためには引き分けでは意味がない。「絶対に、打って決めてやる!」……そう心に誓った大島さんは、角の2球目をセンター前へ弾き返しサヨナラ勝ち。歓喜の中、マジック12が点灯した。
こうして振り返ると、終盤の3打席ですべて打点を挙げた大島さんの「負くっか魂」がチームを一つにし、シーズン最終戦での逆転Vを呼び込んだと言っても過言ではない。
「奇跡を起こそうったって、なかなか起きるもんじゃないですけど、やっぱり勝利への執念ですかね。『もうダメだ』と思ったらやっぱり、行けてなかったんじゃないですか。ベンチに入ってる全員がダメだと思わなかったからこそ、奇跡が生まれたんだと思います」
今季前半戦、Aクラス3チームには大きく引き離されてしまったが、まだまだシーズンは終わっていない。相手が江川だろうと、5点差だろうと、諦めず食らい付いていった大島さんが、自分の人生を「生ききった」ように、後半戦はシーズンを「精一杯戦いきった」と胸を張って言えるような戦いを見せてほしいと、切に思う。
大島さんのご冥福を祈ります。素晴らしい戦いを見せてくれて、ありがとうございました。
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