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生まれたばかりの子犬5匹のうち2匹がすでに死んでいて…ペット繁殖業者の“生々しい実情”を衝撃ルポ

『「奴隷」になった犬、そして猫』より #2

2021/06/22
note

動けなかった行政

 静岡県でもこれらの問題は把握していた。だが、動物愛護法のあいまいさが、指導のネックになっていたという。静岡県動物愛護班は、犬猫等販売業者に対する指導の難しさを打ち明ける。

「ブリーダー(繁殖業者)に限らず、高齢者による犬猫の飼育について、飼育放棄につながりやすいなどの問題があることは理解している。しかし動物愛護法では、犬猫等販売業者に対して、飼育頭数についての具体的な数値規制を設けていない。そのため今回のような状況でも、『飼育頭数を減らせ』という指導はできず、本人の意思に任せざるをえなかった。ケージの大きさについても、狭ければ当然問題なのだが、やはり具体的な数値規制が動物愛護法にない。これも、感覚だけで判断するしかないのが現実なのです」

 後述するように、環境省による「動物の適正な飼養管理方法等に関する検討会」が2018年3月に立ち上がり、1回目の会合を開いて各種数値規制の検討を始めていた。だが、この時点では2回目の会合開催の見通しも立っておらず、議論は思うように進んでいなかった。

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「犬猫にとっても業者にとっても、適切な飼育環境を実現できるよう指導していくことが、行政の仕事。それなのに、現行の動物愛護法ではそれが難しい。環境省にはできるだけ速やかに、ケージの大きさや従業員1人あたりの上限飼育数などについて、具体的な数値規制を定めてもらいたい」(静岡県動物愛護班)

 劣悪な環境に取り残されている甲斐犬たちについては、新たな飼い主を探す作業を地道に続けていくしか、道がない。しわ寄せは、犬たちと動物愛護団体へと向かう。NPO法人「まち・人・くらし・しだはいワンニャンの会」の谷澤理事長は、「厳しい環境で長年生きてきた子たちに、平穏な余生を送らせてあげたい」と話した。

【前編を読む】「僕みたいな商売必要でしょう」ケージに糞尿が堆積、緑内障で眼球が突出…売れ残った犬猫を回収する“引き取り屋”の言い分

「奴隷」になった犬、そして猫

太田 匡彦

朝日新聞出版

2019年11月20日 発売

生まれたばかりの子犬5匹のうち2匹がすでに死んでいて…ペット繁殖業者の“生々しい実情”を衝撃ルポ

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