NPOのメンバーが見た凄惨な現場
こうした事態を受けて、親族から相談された同市内のNPO法人「まち・人・くらし・しだはいワンニャンの会」が動いた。
7月上旬に同NPO法人のメンバーらが現場に足を踏み入れた。すると、大きめのケージには2匹ずつ、身動きもままならない小さなケージには1匹ずつ、犬たちが入れっぱなしになっていた。足元には糞尿。生まれたばかりの子犬5匹のうち2匹がすでに死んでおり、続けてもう1匹がすぐに死んだ。動物病院に運び込まれた残りの2匹にもたくさんのノミやダニが付着していて、貧血状態だった。
同NPO法人は親族とともに成犬たちの世話にあたっているが、警戒心が強く、ケージ内の掃除や散歩はままならない。首輪を付けたことがない犬がほとんどのため、当初はケージの外からエサや飲み水を与え、ホースで水をまいて糞尿を洗い流すのが精いっぱいという状態だった。7月下旬になり、多くの犬になんとか首輪を付けられ、一部はケージ外に係留できるようになったという。
同NPO法人の谷澤勉理事長は「犬たちにとって、かなり厳しい状態が続いている。犬の所有権を親族の方に移したうえで譲渡に努めていきたいが、24頭もの甲斐犬に新しい飼い主を見つけてあげることは、かなりハードルが高い。こうなる前に、行政は適切な監視・指導ができなかったのだろうか」と話した。
行政による立ち入り検査の判断は「問題なかった」
甲斐犬は、もともと猟犬種として使われていた中型犬。主人には従順だが、それ以外の人には強い警戒心を示すとされる。運動量も豊富なことから、本来は長時間の散歩も必要な犬種だ。
この繁殖業者の男性は、倒れるまでは適切に飼育管理をしていたと、静岡県衛生課動物愛護班では見ている。「年に1回は定期的な立ち入り検査をしており、第1種動物取扱業の登録更新も行われている。現場の判断としては問題なかった」(県動物愛護班)とする。
だが、70代の高齢者が1人で、20匹を超える、豊富な運動が必要な中型犬の世話を適切に行うことは、一般的にはかなりの困難をともなう。ケージも、甲斐犬の体長・体高では身動きを取るのが難しいサイズのものが一部使われていた。
また、13年に施行された改正動物愛護法で犬猫等販売業者に義務づけられた「終生飼養の確保」の観点からも、疑問が残る。男性は、策定と順守が義務づけられている「犬猫等健康安全計画」に「自分で終生飼養する」という趣旨の文言を記入していたというが、若い犬では1歳の犬もいることから、日本人男性の平均寿命や健康寿命から考えて終生飼養ができなくなるリスクをどう考えていたのか……。