山の中で「火の玉」を見たことがあるだろうか?
20年ほど前、宮城県の蔵王山を臨む丘陵地に住む男は、薄暗くなった中で山のほうに火の玉を見た。それは1メートルを超える大きさで、周りが明るく照らされたほどであり、およそ20メートル飛んで消えた。
男の祖母も火の玉を見たことがある。朝4時、野菜を積んだカゴを背負い、近所の人たちと出荷場へ歩いていた。いつもの通り墓場の横を通り過ぎようとすると、1メートルを超える火の玉が燃えている。祖母たちは腰が抜けて動けなくなったという。
火の玉の正体は諸説語られている。
土葬の風習が残る集落では、埋められた遺体からリンが放出されて燃えると考える人がいる。しかし遺体からリンが出た程度で大きな火の玉になり、空中を飛ぶとは考えにくい。キジ科の日本固有種であるヤマドリという説もある。明け方や夕方、ヤマドリが飛ぶと羽擦れで静電気が起きて火花が散る。暗い中でその姿が火の玉に見えると。
しかし山では、火の玉は人の魂である、または不吉の前兆であると考える人が多い。
伝説の集団「マタギ」から聞き取った実話の数々
東北の厳しい冬山へ入り、熊を狩って暮らした伝説の集団「マタギ」。発祥は平安時代とも鎌倉時代とも言われ、戦前までは東北各地にマタギの集落があり、その血を引く人たちは今も残る。
マタギは、山は山神様が支配するという山神信仰に篤い人たちであり、山の中で“怪異”を体験することも多かった。
このマタギを中心として、山で暮らす猟師などに怪異体験を聞いた実話集シリーズ『山怪 山人が語る不思議な話』(田中康弘著、山と溪谷社)は累計25万部を超えた。これを原作として、独特の墨絵で描かれた漫画『山怪 四 狐火になった男』(漫画・五十嵐晃、リイド社)にも、恐怖であったり、不思議であったり、原因不明の現象が描かれている。(冒頭の話は「固まる爺婆」)