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「チブク」と呼ばれる禁じられた行為
奥秩父に住む鉄砲撃ちの男は、ある日、ヤマドリを撃ちに山へ入った。夜が明ける前、ヤマドリが動きはじめるのをじっと待っていると、目の前が急に明るくなった。朝日が差して来たのかと思ったが、目の前に現れたのはまばゆく光る女の姿だった。怖くなって鉄砲を向けると、女はスッと消えた。「山の神に違いない」と思い、震えながら手を合わせ、猟を止めて山を降りた。
山には、「チブク」と呼ばれる禁忌(禁じられた行為)がある。
男の家は子供が生まれてまだ5日目だった。子供が生まれた時に猟に出るのはチブクであり、男は山の神が怒ったと思ったのだ。
マタギにも同様の考えがあるという。人が死ぬと穢れが残るため1年間は猟に参加できず、血にまみれるためお産の時も猟に行くことは禁じられていた。
オサキをたどればキツネに行きつく
奥秩父では、家に入ってくると不幸になるという、得体の知れない「オサキ」の存在が語られている。しかしオサキが家にいれば栄え、いなくなれば没落するという逆の考えもある。
オサキをたどればキツネに行きつくという。昔、9尾のキツネが退治された時、その裂けた尾がこの地に落ち、「尾裂様」とも言われるようになった(「真夜中の石臼 その二」)。
奥羽山脈に囲まれ、冬は積雪10メートルを超える豪雪地帯の集落。
ここに住む男の祖母は産婆を務めていた。ある日、祖母が温泉に行くために狭い山道を歩いていると、前のほうに人影が見えた。近づくと若い女が座っている。「気分でも悪いのけえ」と聞くと、女はうなずいて「……子供が生まれそうで」と言う。