昭和34年(1959年)創刊の総合週刊誌「週刊文春」の紹介サイトです。最新号やバックナンバーから、いくつか記事を掲載していきます。各号の目次や定期購読のご案内も掲載しています。

2021/06/18

 こんな山道で産むのは大変だと思案していると、女があくびをした。その口の開き方が尋常ではないほど大きく、そして口の中には牙が並んでいた。キツネだ――祖母は驚いて逃げ出した(「飛ぶ女 その二」)。

山怪 四 狐火になった男』リイド社より

キツネに取り憑かれ、ヒッヒッと笑う男

 キツネに取り憑かれる話も少なくない。

 岩手県山間部の集落。祝い事に行った人たちがほろ酔い加減で帰ってくると、集落に入った途端に1人の男が狂ったようにグルグルと回りはじめた。数人がかりで押さえつけたが、男はヒッヒッと笑うばかりだった。キツネに憑りつかれたと思った別の男がその男の背中を力いっぱい叩くと、皆の目の前で大きな何かがブワッと飛び出した。当の男は何も覚えていなかった。

山怪 四 狐火になった男』リイド社より

 山梨県へ抜ける秩父往還(街道)の集落では、ある日、小学校低学年の男児の顔が突然険しくなり、跳ねまわりはじめた。キツネに憑りつかれたと思った家族が坊主を呼び、坊主が男児の背中を強く叩くと、男児の力がスッと抜けた。しかし今度はその傍にいた母親がうなって激しく動き回りはじめたため、再び背中を叩いてキツネを追い出した。

 その母子の家にキツネが憑りついているのは明らかだった。坊主は、近くの三峯神社から御眷属(ごけんぞく=神の従者)の絵が描かれた札を持ち帰り、その家の中にベタベタと貼ると異変は収まった。三峯神社は山犬(ニホンオオカミ)を御眷属としている。ニホンオオカミは山の獣の最高位にあり、他の獣は怖れて逃げ出すのだという(「狐憑き」)。

山怪 四 狐火になった男』リイド社より

 墨絵を描いた画家の五十嵐晃氏は、出羽三山が連なる山形県鶴岡市出身だ。

「私自身、寝ていた時に、体の上を人が次々と歩いていく足の感触に気づいて、目を開けた瞬間、鼓膜が破れるほどの音が聞こえて気絶したことがあります。近くには、亡くなった仲居が部屋に出てきて、『用事はないから大丈夫』と言うと消えていく旅館があり、見える人には見えると言われていました。この夏、山へ行けば不思議な体験ができるかもしれませんね」

山怪 四 狐火になった男 (ボーダーコミックス)

五十嵐 晃 ,田中 康弘

リイド社

2021年6月15日 発売

この記事の写真(8枚)

+全表示

ツイッターをフォローして最新記事をいち早く読もう

文春オンラインをフォロー