昭和34年(1959年)創刊の総合週刊誌「週刊文春」の紹介サイトです。最新号やバックナンバーから、いくつか記事を掲載していきます。各号の目次や定期購読のご案内も掲載しています。

2021/06/18

父親の死を予知した?

 福島県会津の豪雪の村に住む女性は、3歳の時に父親を亡くした。

 その冬、父親は狩猟仲間4人とバンドリに向かった。真夜中にムササビを撃つ猟である。冬の満月の夜は、夜行性のムササビを撃つのに適している。

 父親たちは明るいうちに出掛け、小屋掛け(仮小屋をつくること)をしてムササビを仕留めるつもりだった。しかし山へ入ってそれほど奥まで行かないうちに雪崩が一行を襲った。そのうちの1人だけが飛ばされて斜面を転げ落ちた。静かになった山で、男は仲間の名前を呼んだが応答はなかった。村へ戻り、村中の人たちを連れて助けに戻ったが、最初に女性の父親が見つかり、翌日に他の男たちの遺体も見つかった。

山怪 四 狐火になった男』リイド社より

 父親がバンドリに向かう前、3歳だった女性は不意に仏壇に近寄り、線香を1本手にしたという。それまで線香を立てたことなどなく、家族は「妙なことをする」と思った。後から思えば、父親の死を予知したのかもしれない……(「帰ってくる人 その三」)。

誰かが小屋への階段を上って来る……

 冒頭の男の集落には“見える人”がいる。男の妻が知人の女性と道を歩いていると、女性が突然、半円を描いてぐるりと迂回した。聞くと「あそこにちょっと怖いものがいたから」と女性が答えた。妻は思わず振り返ったが、いつもの道があるだけだった。その女性がある家の前を通った時、「ここ……もうすぐ不幸があるよ」と呟いて、数日後にその家の人が亡くなったこともある(「固まる爺婆」)。

 岩手県に住む男が、山仲間と共に広大な高原台地である八幡平の山小屋に行った時のこと。台風が来るという日、男たちは山に登り、早めに無人の山小屋へ入った。風雨が強くなる中で男たちは酒を飲み、そのまま寝てしまった。静かになった真夜中、男は物音で目を覚ました。誰かが小屋へ至る階段を上って来る……。しかししばらく待っても誰も入ってこなかった。

 翌朝、別の男が近くで遭難者の慰霊碑を見つけた。その時、実は全員が謎の足音を聞いていたことが分かった(「呼ぶ人来る人」)。