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「こいつはDV妻なんです。早く逮捕してください」

―旦那さんはそこでも悲劇のヒーロー気取りですか?

 いえ。力ずくで私を家から追い出そうとしました。私はおなかが大きい状態です。抵抗して暴力を振るわれたり、転んだりしたら大変なことになる。そう思って、引っ張られるまま。靴を履いていない状態でずるずると、玄関の外に出されました。それで元夫は何をトチ狂ったのか、「なんで勝手に来たんだ! 警察を呼ぶぞ」って大声を出す。ところが私は、「呼びたいなら呼べば。私、暴力も何も振るってないし。何の落ち度もないってことを警察に説明できるから」と言って動じない。引くに引けなくなった彼は警察を呼びました。

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 駆けつけた警察官二人に元夫は、「家の中に仕事関係の女性がいるけど、仕事の打ち合わせなんです。なのに、浮気と勘違いした妻が、家の中で暴れ狂ってしまったんです。お巡りさん、こいつはDV妻なんです。早く逮捕してください」と、興奮した様子で言うのです。それに対して私は「暴れてませんよ。家の中を見てきてください。争った形跡はないはずですよ」と言いました。

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 二人の警察官は、膨らんだ私のおなかを見て状況を察し、そのうち一人が元夫に向かって冷静に言いました。「あなた被害者なんでしょう? まずは被害届を出してくれますか? でないと何もできないですよ」と。一方、私には、「奥さん、一旦、この場を離れたほうがいいですよ」と言うんです。私は警察官の助言に従って、実家へと帰りました。

子どもを連れて、逃げました。

西牟田靖

晶文社

2020年11月27日 発売