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“優秀な営業”と“サギ師”の共通点…手口が巧妙化するなか一貫して使われ続ける「会話のセオリー」とは

『サギ師が使う交渉に絶対負けない悪魔のロジック術』より #1

2021/06/27
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 もちろん、すでにターゲットにする人物の名簿があって電話をするときもあるが、電話帳だけを見て、アトランダムに電話をかけることも多く、詳細な名簿が手元にないサギ師にとって、息子の名前(家族構成)を聞くことができたことは大きな収穫である。

 もしここで母親が「オレ」と言われて、ちょっといつもの息子の声と違うのでおかしいと思い、相手を確かめるために「最近、学校の試験はどうだった?」と尋ねたとすると、今度は「息子が学生である」という情報を与えることになる。

 サギ師らは、相手の口から自然に話をさせるように仕向けてくるのだ。

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「話す」のではなく「聞く」ことを重視

 会話術ではよく、初対面の人と話をする場合、相手に7割ほど話をさせて、自分は3割程度にとどめるといいと言うが、彼らはまさにこれを実践し、最初の電話では自分が話す以上の時間を、聞く時間に費やして、情報の収集をする。

 私たちは通常、こうしたサギ師に対して、なんとなく電話口で語気荒く自分の話をまくし立てる“武闘派”のようなイメージを持っているが、それはちょっと違う。むしろ、傾聴することに重きを置いているのだ。

 通常のビジネスでも、この聞く7:話す3の法則を実践している。たとえば、ある健康食品を販売する通信販売業者だ。電話に出た消費者に「飲んでみませんか」と問いかけたとき、「いらないわ、ほかのものを飲んでいるから」と返答されたとする。その「ほかのもの」が何かを聞き出せれば、業者は消費者が何の栄養素に関心を持っているかなどを知ることができる。さらに、消費者が「薬を飲んでいるから、いりません」と答えれば、その薬から病名まで探り当てることもできるのだ。

 前出の典型的なサギパターンのやりとりには、彼らのもうひとつの“スキル”が隠されていた。