すると、息子の上司を名乗る人物が出て丁寧な口調で言った。
「実は、息子さんがなくした小切手は、今日中に取引先へ渡さなければならないものです。小切手は紛失とともに凍結したのですが、その分の代金を今日中に工面しなければなりません……そのお金の一部を、お母さまに立て替えていただけないでしょうか」
そこで現金を今すぐ、どれくらい用意できるかを尋ねて、もし手元に現金がないようであれば、母親を銀行に行かせて、下ろすように仕向けてくる。
何人もの人物を登場させて電話をかける手口
しかし今は、銀行もサギに対する警戒は厳しいので、上司は、「会社にばれると、息子さんは会社をクビになる可能性がありますので、公にしないでほしい」と口止めをしたうえで、もし銀行からどんな用途でお金を使うのかを尋ねられたら、「お葬式代かリフォーム代と答えてください」と指示する。
母親がお金を銀行で下ろして自宅に戻ると、息子や上司から何度も電話があり、お金の受け渡しの指示がある。今は、ATMでの警戒が厳しくなっているので、お金は会社の同僚などを名乗る男が直接、自宅に取りに来たり、どこかの場所に呼び出すことが多い。
こうした何人もの人物を登場させて電話をかける手口で、被害が数千万円以上になるケースは後を絶たない。
極めて巧みな情報の聞き出し方
息子や孫になりすました人物が、金を騙し取るオレオレサギ(振り込めサギ)は昔からある手口で、警察などが散々注意喚起しているにもかかわらず被害は起こり続けている。
なぜなくならないのか?
なくならない理由のひとつ目は、サギ師らは「情報の聞き出し方」が極めて巧みだということだ。
息子を騙ったサギ師が、「オレオレ」と母親に電話をかけたとき、「オレ」と言われると、つい「○○かい」と息子の名前を言ってしまいがちである。すると、息子になりすました人物は、「そうだよ。電話番号が変わったから、メモしてほしい」などと話し始める。