被害総額は減少しているものの、未だ深刻な状況が続いているサギ被害。サギ師たちは巧妙な手口で今もターゲットからお金を盗み取ろうとしている。そんな彼らが一貫して使っている「会話のセオリー」をご存知だろうか。
ここでは、ルポライターの多田文明氏による『サギ師が使う交渉に絶対負けない悪魔のロジック術』(イースト新書Q)の一部を抜粋。サギ師たちの用いる “悪の心理テクニック”を紹介する。(全2回の1回目/後編を読む)
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典型的なサギのパターンにみる手口とは
2020年度の振り込めサギを含む特殊サギの被害総額は、約227億8000万円で、警察の徹底した取り締まりもあり、年々減ってきている。そうは言っても、1日あたりの被害額は6200万円以上であり、いまだ振り込めサギの被害も多く、深刻な状況が続いている。注意喚起がなかなか実らないのには、理由があった。実は、犯人の手口はますます巧妙化するなか、彼らは一貫してある「会話のセオリー」を守っていたのだった。
典型的なサギのパターンを見ながら、そのセオリーを見つけ出してほしい。
「オレだけど」
ある日、男から高齢女性のもとに電話がかかってくる。息子だと思い込んだ女性は答えた。
「○○かい。なんだい?」
息子の名を呼んで尋ねると、相手は次のように言って、電話を切った。
「実は電車に小切手と携帯電話の入ったカバンを置き忘れてしまった。今、会社の人の携帯を借りて、その電話からかけているんだ。もしも駅の落とし物係から電話がきたら、話を聞いておいてね」
ほどなくして、再び、息子から深刻な声で電話がかかってくる。
「小切手をなくしたことで、会社でトラブルになっていて……、ちょっと上司に代わるよ」