2010年に発表された万引き防止官民合同会議の調査によると、日本国内の万引きによる被害総額は少なく見積もって年間4615億円と推定されている。1日あたりで計算すると、その被害額は12.6億円。万引き被害によって閉店を余儀なくされる小売店も少なくない。
ここでは、そうした万引きの実態を万引きGメンの伊東ゆう氏が詳らかに明かした『万引き 犯人像からみえる社会の陰』(青弓社)の一部を抜粋。色仕掛けで己の罪を誤魔化そうとする女性、色仕掛けを受けた店長の思いもよらぬ行動について紹介する。(全2回の2回目/前編を読む)
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色仕掛け
万引き犯を凌辱するアダルトビデオがある。その影響からか、ここ数年、若い女性の万引き犯に警戒されることが増えた。声をかけて事務所への同行を求めると「私をどうするつもりなんですか?」とあらためて確認され、警戒心から腕を組んで胸元を隠す人までいる始末だ。それとは逆に、窮地を脱しようと色仕掛けしてくる者もいる。
数年前の夏、とある下町のショッピングモールで、露出度が高い派手な服装の若い女を捕捉したときのことだ。露出度は高いが、全体的に下品で、あまり見たくない、そんな気持ちにさせる服装である。大量の化粧品をバッグに隠して何食わぬ顔で外に出た女に声をかけると、事務所への同行に応じた女が言った。
「お兄さん、警察呼びますか?」
「おれが決めるわけじゃないけど、そうなっちゃうと思うよ」
「これ返すから、見逃してよ。もう絶対にしないし、お兄さんにも、お礼はちゃんとするから……」
そうなまめかしくつぶやいた女は、私の右腕を抱きかかえて豊満な乳房を肘に押し付けてきた。男性保安員が女性万引き犯を捕捉したときには、その体に極力触れないようにするのが基本だ。無理に触られたと言われてしまえば、いやが応でも警察から事情を聞かれることになり、こちらが加害者扱いされてしまうことにもなりかねないから細心の注意が必要なのである。
「フェラチオでもなんでもするから……。ね、お願い」
こんな挑発に乗ってあとから告発されたら、逮捕必至だ。黙って腕を振りほどいた私は、これ以上触られないように、女から一歩下がって事務所をめざした。