スナックの少女
ここ十数年、多くの地域から声をかけてもらって、さまざまな街でセミナーや現地指導をする機会を得てきた。北海道や岩手県、香川県では、万引き防止対策協議会に参加して、現地指導も含めたセミナーを定期的に開催してきた。テレビ番組のロケでは四国地方や大阪の西成地区での集中取り締まりに密着され、タイ、インドネシア、フィリピンとアジア3カ国でのセミナーや捕捉活動も経験した。東京の商店とは違う客足の少なさに苦しみながらも、いくつかの爪痕を各地で残すことで、自分の目が世界に通用することを実感できた。コロナ禍のために出張にいく機会やロケに入ることもなくなってしまったが、以前のように活動できることを祈っている。ここでは、四国地方で捕捉した2人の少女について話そう。
出張先の現場は、地元で有名な歓楽街の近くに位置する大型ショッピングモールYだった。食品のほか、日用品やコスメドラッグ、衣料品などの商品を扱っていて、フードコートをはじめ、ゲームセンターや映画館も併設している巨大ショッピングモールだ。当日の勤務は午前11時から。入店手続きを終えて事務所に行くと、銀行員のような雰囲気をもつ40代後半だろう店長に意外なほどの大歓迎を受けた。
客数の少ない巨大ショッピングモールで
「お待ちしていましたよ! こっちには、私服警備をやられている警備会社が少ないもんですから、困っていたのです」
「そうでしたか。被害は、かなり頻繁にあるのですか?」
「東京の店と比べたらのんびりしていると思いますけど、ここは比較的ガラの悪い地域なので多いんですよ。常習さんもたくさんいるので、みんな捕まえちゃってください。費用もかかっていますし、なんとかお願いします!」
「はい、頑張ります……」
早口で窮状を訴えながら費用対効果の成果を暗に求める店長の言葉が、このうえないプレッシャーとなって私にのしかかる。期待に応えるべく気を引き締めて売り場に入るも、客数の少なさに愕然とさせられた。東京の現場と比べると、3割くらいの客入りしかないのだ。犯行の多くは人混みに紛れて実行されるので、客入りが悪ければ万引きされる確率も低くなる。たとえ常習者が現れても、一対一の状況に陥ってしまう状況では、気づかれることなく犯行を現認するのも難しい。
自分の実力が試されているような気分になった私は、メインの出入り口が見渡せる場所に身を潜めて、来店者の流れを観察することから始めた。しかし、店に来るのは幸福そうに見える家族連ればかりで、特に気になる人の入店はないまま時間だけが過ぎていく。どうやら、家族連れから発せられる平和なムードが、店内の防犯効果を高めているようだ。